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「哀ちゃん、もうやめて……」
理性を侵食していく淫靡な感覚に耐えながら、蘭は何とか言葉を吐き出す。
限界を迎えそうな身体と同様に、その声は震えていた。
「まだそんなことが言えるのね」
哀は少し不機嫌にそう言うと、秘裂をさする指に僅かに力を込めた。
それに応じてまた、指に絡みつく愛液の量が増す。
「ん、ふううぅぅ……」
蘭が切なげに息を吐く。
哀は、その焦らすような愛撫を続けながら蘭の耳元で囁いた。
「さあ、言ってみなさい。どうして欲しいの?」
哀は確信していた。
浮き出た汗。
朱に染まった肌。
せわしない呼吸。
そんな身体から、より深い快楽を求める以外の言葉が出るはずがない、と。
しかしそれは見事に裏切られた。
「何で、こんなこと、するの?」
蘭の言葉に、哀の手が止まる。
断続的に与えられていた刺激が止み、やっとのことで蘭は身体を支配しつつあった感覚を
押さえ込んだ。
そして、ずれた焦点を哀に合わせる。
哀は、視線を落としたまま動かない。
左手は身体の横で握り締められていて、微かに震えているように見える。
口元からはあの冷酷な笑みが消え、その表情はまるで何かに耐えているような……
「何で…何でこんなことするかって?」
哀が口を開く。
蘭ははっとして、自分の置かれている状況も忘れて哀に見入っていたことに気付いた。
だがその思考は、次の段階に移る前に中断させられた。
「っくうぅ!?」
蘭が驚きの声を上げる。
哀が唐突に、二本の指を割れ目に捩じ込んだのだ。
そして、その先端が処女の証に触れたところで止まる。
「あっ…や、やめ……」
「何でこんなことするか、ですって?」
蘭の怯えた声を、哀が遮る。
今までの冷たい声とは違う、強い感情が、それも負の感情が込められた声。
憎しみのような、恐れのような、悲しみのような。
それら全てであって、どれでもないような。
そんな不思議な声に、蘭が気を取られた瞬間……
「全部あなたのせいじゃない!」
叫ぶような哀の声と共に、引き裂くような鋭い痛みが蘭を襲う。
「―――っっっ!!」
蘭は、突然の余りに大きいその痛みに、全身を硬直させた。
その後、今度はぐったりと身体をソファに預け、止まっていた呼吸を再開する。
頭は背もたれに乗り、自然と視線は天井に向けられる。
その体勢のまま十数秒。
哀の指が抜かれる痛みでふと、蘭は我に帰った。
そして、そこから更に遅れて、自分の貞操が奪われたことを理解した。
太腿に水滴の感触。
(私、泣いてる…の?)
蘭は最初、自分が無意識の内に流した涙だと思った。
だが。
蘭の頭は背もたれの上で天井を見上げたまま。
横に流れて耳を濡らすことはあっても、太腿に落ちるはずがない。
深い悲しみに捕われている意識とは別の、冷めた目で現実を見詰めていたもう一つの意識が、
冷静にそう分析する。
蘭は、秘所から全身へと広がる激痛に耐えながらゆっくりと身体を起こした。
(―――え?)
そこには、涙を流す少女がいた。
顔を伏せて。
肩を震わせて。
その姿は、余りにも弱々しかった。
その少女が哀であると断定することを躊躇ってしまう程に。
(どうして哀ちゃんが泣いてるの?)
蘭は当然の疑問を抱いた。
哀は、蘭を罠に嵌めた張本人だ。
笑うことはあっても、泣くことなど有り得ない。
有り得ないはずが、その哀が現にこうして蘭の目の前でしゃくり上げているのだ。
蘭としては、呆然とその様を見詰めているしかない。
だが蘭は、そこでふと哀の口が微かに動いていることに気付き、その言葉に耳を傾ける。
哀は、何度も何度も繰り返していた。
まるで呪文のように、「あなたのせいじゃない」と。
「哀ちゃん……」
何故かそれが痛々しくて、何故かそれを見ているのが辛くて、蘭は哀の名前を呼ぶ。
哀はゆっくりと顔を上げ、正面から蘭の目を見詰めた。
それはひどく頼りない目だった。
許しを乞う罪人のような。
彷徨い歩く子供のような。
それでいて、何かを訴え掛けるような。
哀が、その瞳と同様のか弱い声で言う。
「あなたが…あなたの心が私の物にならないから…だから、せめて身体だけでも奪ってやろうと
思ったのよ……」
それを聞いて、蘭はやっと哀の内に秘められた想いを知った。
嫉妬。
それも、自分の心を侵し、傷付け、引き裂いてしまう程に激しい、嫉妬。
それはつまり、哀が蘭に想いを寄せているということ。
常軌を逸した愛情。
自然の摂理から、繁殖の本能から外れた異常な想い。
だが蘭は何故か、その感情をすんなりと受け入れることが出来た。
哀の自分への想いを知って蘭の胸に溢れてきたもの。
それは、少しの驚きと戸惑い。
そして、それらを包み隠してしまうのに十分な愛しさ。
蘭は、足元に視線を落として泣き続ける哀を優しく抱き寄せた。
哀はビクッと身体を震わせ、すぐに蘭の身体を突き放す。
「どう言うつもり!?私はあなたを陵辱したのよ!処女を奪ったのよ!もっと悲しみなさい!
もっと私を恨みなさいよ!!」
哀が、昂ぶった感情を一気に吐き出す。
涙も声の震えも、既に止まっていた。
だが、蘭はそれには答えず、乱れた息を整えようとする哀を見詰める。
そして、あくまで優しく言った。
「ねえ、哀ちゃん。私のこと…好き?」
その言葉に触発されて、一度は収束しかけた哀の心の揺れがまた大きくなる。
「そんなこと、どうだっていいじゃない!一体何の…っ!んぅう!?」
蘭は、激情に任せて言葉を紡ぐ哀の口に、躊躇いなく自分の唇を押し当てた。
それから数瞬の後、ゆっくりと、どこか名残惜しそうに唇を離した蘭は、驚きに見開かれている
哀の目を見詰めて同じ問いを繰り返した。
「私のこと、好き?」
暫くの沈黙。
二つの視線が交差すること十数秒。
哀が、ゆっくりと口を開く。
「ええ、好きよ。どうしようもないくらい…それが何なの?だからどうだって言うの?私が
あなたを好きだから、だから私を許せるって言うの?」
ばかばかしい、と言いたげな哀の口調。
それでもやはり、どこか頼りなげな声。
そんな哀を、蘭はもう一度優しく包み込む。
そして、弱々しくも身体を捩って逃れようとする哀の耳元に口を寄せて囁いた。
「それが好き≠チてことじゃないかな」
哀は抵抗を止めてきょとんとした目で蘭を見上げると、蘭は穏やかな笑みで答えた。
その瞳に吸い込まれるように見入ったまま、哀は不思議そうに蘭の言葉を反芻した。
「好きって、こと?」
「そう。分からない?」
哀は、コクリと頷く。
蘭は哀の頬に手を添えると、今度は軽く唇を合わせる。
そして、言った。
「好きよ、哀ちゃん」
その瞬間、哀の目から止まっていたはずの涙が一筋、たった一筋流れる。
そしてそれは、頬に当てられている蘭の手を濡らした。
蘭はそっと哀の頬を拭うと、もう一度「好きよ」と言った。
それを合図に、今度は幾つもの雫が哀の目からこぼれ落ちる。
「分かる?好き≠チていうこと」
蘭の問いに、哀は何度も頷いた。
そして蘭が三度[みたび]哀を抱き寄せると、哀は声を上げて泣いた。
―――およそ十分後―――
「ごめんなさい、私…その……」
哀は微かに頬を染め、言い辛そうに顔を伏せる。
蘭のヴァージンのことを言っているのだ。
「いいのよ、気にしないで」
「でも……」
蘭は努めて明るく言うが、哀は一向に納得する様子を見せない。
それどころか、困り果てている蘭に哀がとんでもない一計を案じた。
「そうだ。私の、その…初めてをもらって」
この言葉が蘭の脳に到達するまでに数秒、その意味を理解するのに更に数秒の時間が費やされた。
「え?えええぇぇええ!?」
(初めてって、初めてのエッチの…って、私ってば何恥ずかしいこと言ってるのよ!でも、哀ちゃん
はまだ小さいし…って、別に大きければいいって訳でもなくて…ってそんな問題じゃなくて!それに
女の子同士だし…ああでも、さっきは凄く気持ちよかっ…何考えてるのよ、私!!)
蘭が一人で照れて赤くなる。
哀は、そんな蘭にチュッとキスをして抱き着く。
そしてその耳元で、小さく「好き」と言った。
(あぅぅ、どうしよう……)
蘭は、そのまま哀を抱き締めてしまうわけにもいかず、両手を宙に彷徨わせる。
哀は身体を離すと、不安げな表情を浮かべて「私のこと…嫌い?」と訊いた。
「そんなことない!そんなことないけど……」
「じゃあ、好き?」
慌てて首を振る蘭に、哀が間髪入れずに問いを重ねる。
「それは、あの、えっと……」
これは遠回しに「私の初めて、もらってくれる?」と訊いているのだ。
それが分かっているからこそ、蘭は答えを躊躇ってしまう。
女の自分がそんなことをしていいのだろうか。
将来、哀に相手が出来たら……
チュッ
唇に感じた柔らかい感触に、蘭の意識が強制的に引き戻される。
そして、いつの間にかずれていた焦点が目の前の哀に合う。
哀は正面から蘭を見詰めると、満面の、とはいかないまでも、普段の無表情な哀からは想像も
出来ないくらいの笑みを浮かべて「大好き」と言った。
勝負あり、だ。
蘭は数瞬の躊躇いの後、頬を真っ赤に染めて、首を縦に振った。
続
何「ホント、よかったなぁ。思いが通じて(ホロリ)」
蘭「……」
何「何だ?その「もうダメね、この人」っていう視線は」
哀「ちゃんと自覚してるんじゃない」
何「お前らには分からんのか!?同姓という壁を越えた、この美しいまでの……」
園「それって、当人達に言っても無駄じゃない?」
何「そんなことはない!って言うか、お前こっちに出てないだろ!帰れ!今すぐ帰れ!!」
歩「(ビクッ)歩美、ここにいちゃダメなの?ヒック……」
何「ああ、泣くな泣くな。それでも男か!」
哀「つっこんじゃダメよ、図に乗るから」
何「何だとぉ?貴様それでも芸人か!」
蘭「ここも無視するところよね。ほら、歩美ちゃん。もう大丈夫だから」
何「……」
園「あ、効いてる効いてる。今度からこれね」
何時姫です。
楽しんでいただけたでしょうか?
次で「幸」も簡潔です。
いや、本当はこっちも3話で終わろうかと思ったんですけどね。
少し長くなってしまいましたので。
と言うわけで、次回愛・乱 4 幸[こう]≠ィ楽しみに。