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追憶の梟 第十四話「Kiss of Life」
キャロン/文


 木之本家。

 

 家に帰った桜は、一人沈んだ表情をしながら俯いていた。

 (明日…どんな顔して会ったらいいんだろう…)

 今となっては、後悔ばかりが桜の胸を締め付ける。

 (あんなに…酷い事言ったのに…)

 銀の顔を思い出す度に、涙が零れ落ちる。

 (銀さん…今日も笑ってくれてた…)

 

 「ただいま。」

 玄関から、帰宅した藤隆の声が聞こえてきた。

 涙を拭いた桜は、直に玄関へと向かう。

 「お帰りなさい、お父さん。」

 「何だか久しぶりな気がするね、ところで白金さんは?」

 藤隆がそう聞くと、桜は困った様に俯いてしまう。

 「えっと…今日は…お家に帰るって…」

 「?…そう。」

 その様子に疑問を抱いた藤隆だったが、気になりながらも今は何も言わなかった。

 

 「桃矢君は、まだみたいだね。」

 「…うん…」

 何を聞いても、桜の答えは普段より元気が無い。

 一応は普段通りに振舞ってはいるが、それに気付かない藤隆ではなかった。

 「…さくらさん…白金さんと喧嘩でもしたのかい?」

 「っ!」

 そう言われ、桜の体は驚いた様に小さく震える。

 「…解るの?」

 「解るよ、僕はさくらさんのお父さんだからね。」

 

 「お父さんは…お母さんと喧嘩した事…ある?」

 「喧嘩か…した事は無かったね。」

 大体は予想していた。

 藤隆の性格では、どんな理由があっても決して人と争ったりはしない。

 

 「でもね、一度だけ…撫子さんを泣かせてしまった事ならあります…」

 「嘘?お父さんが!?」

 「はい。」

 突然、滅多に見せない寂しそうな顔になった藤隆は静かに語り出した。

 いつも桜に話す楽しかった思い出に隠れた、藤隆のたった一度の哀しい出来事。

 「さくらさんも知っての通り、僕が撫子さんと出会った頃は、まだ新米の教師でした。」

 

 藤隆と撫子が結婚を決めた時もこの頃。

 しかしそれは決して、周囲の祝福を受けたものではなかった。

 あらゆる方面から反対を受け、撫子の家族にも快くは思われていなかった。

 

 「そんな時…疲れてしまったのでしょうか…こんな事を撫子さんに言ってしまって…」

 桜もある程度聞いていた事だが、改めて藤隆自身から聞くのは初めて。

 その為、これ以上聞くのは恐くも思ったが、それでも桜は知りたかった。

 二人の真実を。

 「…何て?」

 

 「君は…僕と一緒になるより幸せな道があるのかも知れない…って…」

 

 「そんな事ないよっ!」

 突如、桜の叫びが部屋に響く。

 「だって…一番好きな人と一緒にいる事より…幸せなんて…」

 その瞳には、涙も溢れていた。

 「そんな事ない…絶対ないよ…」

 

 「撫子さんも、そう言って泣いてしまいました…」

 そう言って藤隆は、ソファーに座り泣きじゃくる桜の隣に座った。

 「あの時の撫子さんの顔は…今でも忘れません…」

 話している藤隆の顔は、また普段の笑顔に戻る。

 「でも、あの時撫子さんとの結婚を諦めないで、本当によかった。」

 桜の肩を、優しく抱きしめながら。

 

 「撫子さんはもう僕の前にはいませんが…負けないくらい優しいさくらさんがいるから…」

 その言葉を聞き、桜は涙を止め藤隆の顔を見上げた。

 「ありがとう、さくらさん。」

 藤隆の桜を抱く手が、少しだけ強くなる。

 「僕と、撫子さんの子で…」

 

 「お父さん…」

 再び涙が溢れ出す。

 そして、藤隆の胸に顔を埋めたまま、何も言う事が出来なかった。

 今はただ、二人の愛情が痛いくらいに感じる。

 

 

 暫らく幼い子供の様に藤隆に甘えていると、玄関の呼び鈴が鳴り響いた。

 「桃矢君?ならわざわざ鳴らさないかな…」

 「誰だろ?」

 居間を離れ、二人は玄関へと向かう。

 「何方ですか?」

 藤隆が玄関を開けると、そこには桃矢を背負った雪兎の姿があった。

 「雪兎さん!?お兄ちゃんも!?」

 「どうしました!?」

 「あの…それが…」

 雪兎が返答に困っていると、突然背後から声が聞こえてきた。

 「…スッ転んだ…」

 

 「とーやっ!?起きてたの?」

 「ああ…ほんの少し前からだけどな…」

 それでもまだ調子が悪そうに、桃矢は頭を押さえながらフラフラしていた。

 「お兄ちゃん、大丈夫?」

 「ちょっと転んだだけだ、心配無い。」

 「駄目ですよ桃矢君、すぐ病院に行って検査しないと。」

 言うが早いか、藤隆は早速車を用意しようと外に出た。

 しかし、そこで桃矢のバイクを発見した藤隆は、思わず立ち止まる。

 「月城君…このバイクも月城君が?」

 「いえ、それは白金さんが…」

 雪兎が周囲を見渡すと、バイクはあるが銀の姿は無かった。

 「あれ?…白金さん?」

 

 「そうですか…バイクは白金さんが…」

 「でも、何で何も言わずに行っちゃったんでしょう?」

 二人の会話を聞きながら、桜は玄関で暗い顔をしていた。

 

 その後、藤隆は車を用意し、桃矢を乗せる。

 「…さくら…」

 その時だった、桃矢の桜を呼ぶ声が聞こえてきた。

 「あいつと…何かあったのか?」

 「ほえ!?」

 まだ何も言っていない筈なのに、桃矢には既に銀と桜の事がある程度解っていた。

 「ううん、別に何もないよ。」

 それでも、桜は怪我をしている桃矢に余計な心配を掛けまいと、その場は笑顔で振舞う。

 「…そうか…」

 しかし、それですらも桃矢は騙せない。

 「悪いと思ってんなら、ちゃんと謝っとけよ。」

 

 「…お兄ちゃん…」

 もしかしたら、ずっとこの言葉を待っていたのかも知れない。

 謝るという事は確かに考えていた、だが、それでも躊躇していた。

 悪いと思っていない訳ではない、それどころか悪いのは全て自分だとも考えている。

 だが、今まで謝る事が出来なかった。

 許されるかどうか、不安でならなかったが為。

 

 「それじゃさくらさん、お留守番…」

 声を掛けた藤隆が見た桜は、銀のアパートを見詰めながら、胸を押え付けていた。

 「…さくらさん。」

 「お父さん…わたし…」

 桜の表情を見た藤隆は、それだけで全てを理解する。

 そして、笑顔で再び声を掛けた。

 「戸締りは、忘れないで下さいね。」

 それを聞いた桜は、一瞬泣き出しそうな顔をするが、すぐに笑顔に戻り元気に返事をする。

 「うん!」

 

 「おじさん、僕も御一緒していいですか?」

 「勿論ですよ。」

 雪兎は、桜が一人にならない様に、暫らくここに留まるつもりでいた。

 だが、今となってはその必要も無い。

 「早く仲直り出来るといいね。」

 

 

 三人が車で病院へと向かった後、桜は一度自分の部屋へと戻る。

 「どないしたさくら?兄ちゃん帰って来たんとちゃうんか?」

 「うん…でも転んで怪我しちゃったみたいで…今病院に行ったの…」

 部屋で待っていたケルベロスの問いに答えながら、桜は着替えていた。

 「何や?さくらも出掛けるんかい?」

 「うん…」

 「ほなワイも…」

 「だめっ!」

 ケルベロスがバッグに潜り込もうとすると、桜はすぐにそれを止める。

 「ケロちゃんはお留守番してて。」

 「何でや?ワイがおったらアカンのか?」

 「銀さんに…謝って来るんだもん…」

 

 桜の呟きを聞いたケルベロスの表情は、突如として真剣な物に変わった。

 「何や…やっぱ悪い思うとるんか…」

 その変化に少々戸惑った桜だが、その問いに小さく首を縦に振る。

 「ワイはな…銀がクロウの差し金やと気付いた時、確かに騙された気分やったが…別に怒ったりせえへんかった…」

 確かにケルベロスは、あの時の事を何も言わなかった。

 特に銀を嫌った様子も無い。

 「それどころか同情までしたで…さくらがあないな事言うたから…」

 思い出す度に、桜の胸が締め付けられる。

 恐らく、桜が人生の中で初めて使った、最悪の言葉。

 「せやけどな…それが誤解やと気付いた時には、その嫌なモンが全部自分に降りかかるんや…」

 そう話すケルベロスの表情が、少しだけ暗く陰を落す。

 「ワイも昔…クロウと似た事があったさかいな…」

 

 「クロウさんと?」

 「後で…機会があったら話すさかい…今は自分の事何とかしい。」

 「…うん…」

 そのケルベロスの過去も気になったが、桜はそれ以上何も聞かずに部屋を出て行った。

 「…嫌い…か…」

 一人になったケルベロスは、窓から見える月をぼんやりと眺める。

 「ワイも…クロウに何度言うたか…覚えとらへんな…」

 

 一方、病院へと向かった藤隆の車の中。

 「とーや、何処か痛むところはない?」

 「あぁ…ちょっと足と頭がな…」

 しかし自分の傷以上に、今の桃矢には気になっている事があった。

 「ほんと…何があったんだか…」

 「白金さんと、さくらちゃん?」

 わざわざ答えるのも面倒そうに、桃矢は小さく首を縦に振る。

 「まぁ心配無いよ、今頃きっと仲直りしてるだろうから。」

 「っ!?今っ!?」

 「白金さんの家に行くつもりみたいだったけど、とーやそのつもりであんな事言ったんじゃないの?」

 去り際に言った桜への言葉は、雪兎もしっかりと聞いていた。

 「いや…俺は次に学校で会ったらのつもりで…」

 「いいじゃない、仲直りは早い方がいいよ。」

 そう雪兎が言っても、桃矢は頭を抱えたまま黙ってしまう。

 「あいつ…何もしないだろうな…」

 

 

 家の鍵を閉めた桜は、その足で銀のアパートへと向かう。

 だが、今でも悩んでいる事があった。

 「…何て言って…謝ればいいの…」

 銀の苦痛を考えれば、下手な言葉では気持ちを伝えきれない。

 心からの謝罪の言葉、まだ幼い桜にはそれがどうしても出て来ない。

 そうこう考えている間にも、銀の部屋の前まで来てしまった。

 「…どうしよう…」

 意を決してここまで来た筈なのに、ここから先がどうしても進めない。

 

 「畜生…酔えやしねぇ…」

 部屋の前で黙って立っていると、中から話し声が聞こえてきた。

 「銀、飲み過ぎですよ…」

 「じゃかぁしいっ!飲みてぇから飲んで何が悪ぃってんだネコッ!」

 銀の激しい怒号が聞こえる度、桜の体は小さく震える。

 「そうだよ…俺ぁあいつを騙してたんだよ…あんなに…」

 中の銀は、酒瓶を片手に俯いていた。

 「あんなに純粋な…さくらをよぉ…」

 

 「…さくらさんの事…嫌いになりましたか?」

 スピネルがそう聞いた瞬間、中から酒瓶の割れる音が響き渡る。

 どうやら銀が、スピネルに向かい投げ付けたらしい。

 「んな訳無ぇだろ…次ンな事言ったら殺すぞっ!」

 「…謝ります…愚問でした…」

 

 それから暫らくしても、銀が酒を飲む速度は変わらない。

 「もういい加減にしないと、本当に倒れますよ。」

 「…いいじゃねぇか…」

 もう、銀の声に力は無い。

 「ブッ倒れてぇんだよ…そうでもしねぇと…眠れやしねぇ…なのに…」

 声も震えている、それだけを聞けば、泣いている様にも聞こえる程に。

 「あいつの顔がよ…焼き付いて離れねぇんだよ…」

 

 (あの時の撫子さんの顔は…今でも忘れません…)

 ふと桜の脳裏に、藤隆の言葉が蘇った。

 「…あ…」

 藤隆のあの時の表情と、扉の向こうの銀の表情が重なる。

 そして、桜は初めて銀の本当の傷に触れた気がした。

 「わたし…酷い事しちゃったんだ…」

 桜の言葉で出来た銀の傷は、藤隆と同じ物。

 

 「銀、誰かいますよ?」

 「…適当に追っ払っとけ…今は誰かに会いてぇ気分じゃねぇ…」

 「…私がですか?」

 知った者なら見られてもいいが、無関係な人間にスピネルは姿を見られる訳にはいかない。

 「うるせえっ!五秒以内に消えなかったら殺すとでも言っとけっ!」

 「…分りましたよ…」

 スピネルが仕方なくドアに向かうと、その向こうから小さく声が聞こえてきた。

 「銀…さん…」

 「?…さくらさん?」

 スピネルの呟く声を聞いた瞬間、銀の顔色が変わる。

 「さくら…スピネコッ!待てっ!」

 「言われなくても、あんな事言ったりしませんよ。」

 

 今度は銀がドアの前に立ち、何の躊躇も無く開ける。

 そこには、黙ったまま俯く桜の姿があった。

 「…さくら…どうした?」

 そう銀が聞いても、桜は何も答えない。

 答えないのではない、正確には銀を目の前にして、どうしても言葉が出てこない。

 「…あの…」

 今までずっと言葉を考えていたのに、いざとなると何も言う事が出来なかった。

 「入るか?」

 玄関前にいつまでも立たせておく訳にもいかない。

 そう聞かれた桜は、少しだけ顔を上げる。

 「…うん…」

 

 

 中に入った後も、桜は銀の正面に正座したまま一言も話す事は無かった。

 ただ、沈黙の時のみが流れる。

 「…銀さん…あの…」

 何か恐がっているのか、桜はどうしてもその先を言えないでいた。

 そんな時、銀はふと立ち上がり、何故かスピネルに向かい歩く。

 「…ネコ…」

 「何です?…って銀っ!何で私を握るんですかっ!?」

 「気にすんな、いつもの事だ。」

 「もう存在はバレてるんですから!投げる必要は!」

 そうこう言っている間に、銀はスピネルを握ったまま窓を開けた。

 「ちょっ!待っ!だあああぁぁぁぁっ!」

 叫びと共に、スピネルは一直線に電柱へと飛んで行く。

 「ぐべっ!」

 さらに命中した後、ズルズルと下のゴミ集積所に落下した。

 「さて…これで話し易くなったろ。」

 当然の事の様に、銀は笑顔で振り返る。

 

 (何で…言うって決めたのに…)

 どうしても、桜には言葉が出てこなかった。

 もう何の蟠りも無い筈なのに。

 「…解ってるよ。」

 そんな時、銀はふと一言呟いた。

 「お前の言いたい事は解ってる、だから無理すんな。」

 そう言いながら、銀は桜の頭を軽く撫でる。

 許すも何も、銀は最初から一つも桜を責める気など無い。

 「ここにお前が来てくれただけで…俺ぁ充分だからよ…」

 

 「…ごめんなさい…」

 銀の言葉を聞いた桜は、不思議と今まで言いたかった事が自然に出てきた。

 「ずっと…守ってくれたのに…いつも笑ってくれたのに…」

 同時に涙も溢れてくる。

 今まで溜めていたものが、全て流れ落ちる様に。

 「わたし…銀さんの気持ちも考えないで…あんな酷い事言って…」

 そのまま桜は、すぐ目の前で座っている銀の胸に、顔を埋める様に泣き出してしまった。

 「ごめんなさい…本当に…ごめんなさい…」

 

 「泣くなよ、別に怒ってねぇから。」

 ようやく落ち着いた桜だったが、ふと視線を送った先に銀の手が見えた。

 その手の甲には、以前桜が付けた爪痕が、まだはっきりと残っていた。

 「…銀さん…これ…」

 「ん?別に、どうって事ねぇよ。」

 だが、再び桜は知らされる。

 自分が受けていた苦痛は、銀の苦しみに比べれば、ほんの些細な物。

 そして銀は、そんな苦しみを受けながらも、いつもと変わらぬ笑顔を見せている。

 「…わたし…なんて事…」

 桜は、己の行いを心の底から悔やんでいた。

 だが、幼い桜には、それを償う方法は何一つ思い浮かばない。

 

 「もう泣くなって。」

 銀がどれだけ宥めても、桜の涙は止まらない。

 「だって…銀さん…優しすぎて…」

 銀が許しても、自分自身が許せない。

 「わたし…どうしたらいいのか…」

 

 抱き締める度に、桜は小さく震える。

 「さくら…」

 桜はまだ知らなかった、銀が自分を守る最大の理由。

 

 銀の一番嫌いな物。

 それは、桜が悲しむ姿。

 

 

 「…好きだ…」

 

 

 その瞬間、桜の震えは止まった。

 今はただ、切ない顔をしたまま、銀の顔を見上げていた。

 「…銀…さん?」

 ずっと不思議に思っていた、銀が自分を守る理由。

 それは、この一言で全て理解した。

 

 「ずっと…お前の事だけを想っていた…」

 何時の間にか、銀の両腕は、しっかりと桜を抱き締めていた。

 「お前の泣く姿だけは…見たくない…だから…」

 ただ一つの願いが、その両手からも伝わる。

 「…笑ってくれ…」

 

 「うん。」

 銀を見上げる桜の顔に、ようやく笑顔が戻る。

 だが、それでも涙が止まる事はなかった。

 「…あれ?」

 必死に止めようとしても、止まる気配は全くない。

 「あれ…何で?」

 それでも、笑顔を崩さないよう、懸命に笑う。

 「もう悲しくないのに…変だよね…」

 

 

 見詰める銀の心には、既に何一つ阻む物はない。

 出会ってすぐにでも言いたかった事。

 桜に対する本当の気持。

 

 「…あ…」

 抱き締める腕が、ほんの少しだけ強くなった気がした瞬間。

 

 桜の唇と、銀の唇は重なり合っていた。

 

 桜は少しの抵抗も無く、ただ目を閉じて銀を受け入れる。

 自然ともう、涙は止まっていた。

 

 

 「…銀さん…」

 それから暫らく頭の中が真っ白になったままだった桜は、今度は赤くなって銀を見詰めている。

 何時の間にか、一糸纏わぬまま、銀の前に横たわっていた。

 「どうした?」

 両手で体を隠したまま、桜は俯く。

 「…恥かしい…」

 その桜の両手も、銀の手が再び体から離してしてしまう。

 桜はただ、顔の赤さを増すだけで、嫌がる素振りは見せなかった。

 

 「可愛いな…」

 銀の唇が、桜の首筋に触れる。

 「ん!」

 それだけでも、桜は電気が走った様に小さく震える。

 そのまま舌を這わせると、その息使いはますます早くなっていった。

 「あ…ふみっ!」

 声を必死に押し殺しているのだろうが、それだけ銀の耳元に触れる荒い息は増えていく。

 「我慢するな。」

 そう言った銀は、桜の小さな胸に手を伸ばす。

 「ひゃんっ!」

 ほんの少し飛び出た先に指が触れた瞬間、思わず桜の口から声が漏れた。

 それが面白く感じ、銀は尚も弄る様に桜の乳房を手で撫でる。

 「や…くすぐったいよぉ…」

 そう言っても、桜はただ息を荒くしながら、身悶えるだけだった。

 当然止める銀ではない。

 今度は首筋から舌を這わせながら下に下がり、小さく膨らんでいるかどうかも解らない乳房にキスをする。

 「んっ!」

 何度も余す所無く触れる唇に、桜の我慢も限界にきていた。

 「あっ!ふあぁっ!」

 そして銀の唇は、その中心の敏感な部分を吸い上げる。

 さらに口に乳房の先を含まれたまま、先を舌で転がしていた。

 「きゃんっ!ふみっ!みゃぁっ!」

 桜はその責めに必死に耐えながら、銀の頭をしっかりと抱き締める。

 

 そのまま銀はさらに南下し、白く柔らかなお腹に舌を這わせていた。

 まるで赤ん坊の様に細かな肌は、触れる銀の舌に何の抵抗も感じさせない。

 「綺麗だ…」

 何の飾りも無いその言葉は、明らかな本心。

 今まで触れたどの女性よりも、桜の肌は心地良かった、たった一人を除いて。

 記憶の隅に残った一人の少女が、桜の姿と重なる。

 遥か十二年前、失った大切な者は、今この手の中にある。

 

 「あの…銀さん…」

 「ん?」

 突然桜が、途切れ途切れながら懸命に声を出し、銀を呼び止めた。

 「ごめんなさい…」

 「何だ?だから怒ってねぇって言ったろ。」

 「ううん…違うの…」

 何か言いたげに、桜はただ俯く。

 「銀さんの気持ち…わたし…ぜんぜん気付かなかった…」

 片思いの切なさは、桜も痛いくらいに知っている。

 「ごめんなさい…」

 

 「いいって。」

 再び同じ目線まで上がった銀は、桜の髪を撫でながら微笑む。

 「でも…なんでわたしなの?」

 「?」

 「だってわたし…子供だし…おっちょこちょいだし…すぐ寝坊するし…」

 自分でも何を言っているのか解らない様子で、桜は焦りながら話していた。

 「それに…みんなに危ない思いばかりさせて…」

 

 「人を好きになるのに、理由が要るか?」

 「ほえ?」

 「ンな面倒な事、考えた事ぁ無ぇよ。」

 銀は当然の様に答える。

 理由など必要なかった、ただそこにある真実のみで、銀は全てを賭けるに充分。

 「強いて言うなら…さくらだからかな…」

 

 銀の心が、激しい波の様に桜を包む。

 今まで知らなかった真実を聞き、桜の中に今までに無かった感情の芽生えを感じていた。

 「銀…さん…」

 潤んだ瞳で銀を見詰めていると、その姿はまた下へと下がって行く。

 「ん…ふぁ…」

 途中で体をなぞる舌の感触に、思わず声が出る。

 さらにその感触は、下腹部を通り太腿へと下がって行った。

 「ふみっ…」

 左右の足を交互に、全体を舐め尽くすかの様に丹念に責める。

 だが、その間ずっと、一番大切な部分には触れていない。

 「…さくら…もうちょっと開いて…」

 銀の声を聞き、ドキドキと高鳴る胸を押さえ、桜はさらに大きく両足を開いた。

 そして露わになった桜の小さな割れ目は、それでもまだ一本の筋のままだった。

 

 「ふみゃっ!きゃっ!あんっ!」

 まだ肝心の部分には触れず、銀の舌は内股からお尻まで順々に唇を重ねていた。

 「や…もう…銀さぁん…」

 既に全身の力が抜け切った様子で、桜は必死に呼び掛けていた。

 桜の小さなお尻の割れ目には、もう透明な粘液が流れ落ちている。

 (いいかげん…おかしくなるかな…)

 小さく笑みを溢した銀は、ゆっくりと桜の秘部へと舌を伸ばす。

 そして、その先が割れ目に触れた瞬間。

 「きゃいんっ!」

 子犬の叫びの様な声と共に、桜の体が大きく跳ねた。

 しかしそれでも躊躇する事無く、銀はなぞる様に下から上へと舌を這わせる。

 「ふみゃあああぁぁぁっ!」

 その途端、桜は叫びながら体を大きく反らした。

 流れる涙もそのままに、倒れたまま痙攣の様にヒクヒクと動くだけになっている。

 「…さくら?」

 既に絶頂を迎え、桜はもう動く事が出来なかった。

 

 「ふきゃあっ!」

 一度は上り詰めた桜に、再び銀の責めが始まる。

 「やっ…らめ…銀…さ…」

 敏感になった桜の体に、先程よりも執拗な銀の攻めは続く。

 「壊れ…壊れひゃぅ…」

 

 何も銀は、意地悪でここまでしている訳ではない。

 桜の花弁は、子供な上に殆ど触れた経験も無い。

 通常よりよく解さなければ、後で耐え難い苦痛を伴う事は解り切っていた。

 「さくら、大丈夫だから、じっとして…」

 再度同じ目線まで上がった銀は、軽く桜を抱き締めながら呟く。

 それでも、指は桜の割れ目に押し付けたまま。

 「あっ!きゃうぅっ!」

 銀の胸に顔を埋め、桜は必死に気が遠くなる様な快楽に耐える。

 だが、銀が少しだけ指を奥に入れると、桜の体に再び激しい電撃が走った。

 「きゃいいぃっ!」

 体の力は既に抜け切った筈なのに、桜の秘部は銀の指を強く締め付ける。

 さらに上下に指を動かすと、それに連動し桜の体も大きく震えた。

 「あっ!あっ!きゃんっ!」

 しっかりと銀を抱き締めながら、胸の中で甘い声を上げる桜は、堪らなく可愛い。

 喘ぎを聞く度に、歯止めが効かなくなっていく。

 

 「ぎっ!銀さんっ!銀さぁんっ!」

 体に爪を立てながら、何か訴える様な目で銀を見詰める。

 「ん?」

 銀がその声に反応した直後、桜は強く銀を抱き締めた。

 「ふきゃあああぁぁぁっ!」

 そして、一際大きく声を出した後、虚ろな目をしたまま大人しくなる。

 全身の力が抜け、もう銀にしがみ付く事も出来ない。

 

 離した銀の指は糸を引き、その状況を物語る。

 呆けたまま倒れていた桜も、銀の体の変化にようやく気付いた。

 「…ほえ?」

 太腿に、熱く硬い物が当たる。

 「銀さん…痛くない?」

 「何が?」

 「だって…腫れてるよ?」

 銀の持つ物は、最初に見た時に比べ大きく隆起していた。

 「これか…すぐ治まる。」

 「ほんと?」

 ふと笑顔を見せた銀は、桜の足を開かせると、その間に体を入れた。

 「銀…さん?」

 何をされるのか解らず、桜は小さく震えながら脅えている。

 そんな桜の不安を癒す様に、銀は軽く唇を重ねた。

 「大丈夫だから…力抜いて…」

 「…うん…」

 急に静かになったせいか、心臓の鼓動がはっきりと聞こえる。

 何をするのかは桜にはよく解らなかったが、一つだけ解っていた。

 今から、自分の大切なものが、銀のものになると言う事。

 

 肌を合わせる銀の背に、桜の手が回る。

 しかし今まで見たどの男より広い銀の背中では、完全に手を回す事が出来ない。

 「…傷?」

 しがみ付く桜の正面、銀の胸の中央から少し右寄りの位置に、何か抉られた様な大きな傷跡があった。

 よく見ると、その他にも無数の大小の傷跡が残っている。

 「これか…あんまカッコイイもんじゃねぇがな…」

 「…ううん。」

 銀の言葉に対し、桜は小さく首を左右に振る。

 「そんな事ない…だって…」

 抱き締める桜は、一際大きな胸の傷に唇を合わせた。

 「全部…銀さんだもん…」

 

 笑顔を見せる桜の顔が、突然強張る。

 「あっ!」

 硬くなった銀の物が、桜の秘部に押し付けられていた。

 その大きさは常人の倍。

 小さな桜では、先を入れるだけでも難しい。

 「怖いか?」

 銀がそう聞くと、桜は大きく首を左右に振った。

 「大丈夫…わたしなら…大丈夫だから…」

 小さく震えながらも、桜は必死に笑顔を繕う。

 

 「…そうか…」

 それを聞いた銀は、先程よりも強く桜に押し付ける。

 「あっ…ふみ…」

 小さな花弁を強引に押し広げ、少しづつだが銀の物は桜の中に埋まっていった。

 苦しいのだろうか、桜は歯を食い縛りながら懸命に耐える。

 「みゃうっ!」

 突如、小さな叫びと共に、桜の体がビクンと震える。

 ようやく先の部分のみ、完全に桜の中に入っていた。

 

 「我慢出来なくなったら言えよ…」

 そう言われても、桜は何も答えず、ただじっとされるがままになっている。

 苦しい筈の中にある、例え様の無い初めての感覚に身を委ねながら。

 

 「銀さん…」

 不安を隠せない顔で、桜は銀を見詰めていた。

 そんな桜に、銀は自分の手を桜の口に当てる。

 「…ほえ?」

 「咥えて。」

 何の事か解らずも、桜は言われた通りに銀の小指を側面から咥えた。

 「いい子だ。」

 

 「ぎっ!」

 銀の指を咥えた直後、銀はさらに奥へと挿入を始めた。

 しかし中は思った以上に狭く、桜の入口はもう裂けそうな程開ききっていた。

 「ひっ!みいいぃぃっ!」

 銀の小指を噛み、涙目になりながらも、桜はただ耐える。

 抵抗は何一つしない。

 例えどれだけ苦しくても、桜に嫌な気持ちは浮かんで来ない。

 銀の感触から感じる痛みさえも、今では愛しく感じていた。

 

 「…キツい…な…」

 今まで知ったどの女よりも、桜は強く締め付ける。

 だが銀も、不快は感じていない。

 わざと噛ませた指も、今の銀には全く気にならない。

 

 「さくら…」

 残った片手で、銀は桜を全身で包む様に抱き締めた。

 そして、耳元で小さく呟く。

 「強く噛んでいいから…行くぞ…」

 

 

 (ブチッ!)

 「ひぎっ!」

 瞬間、銀は一気に桜の一番奥まで押し込んだ。

 桜は小さく呻くのみで、力一杯歯を食い縛りながら、全身を貫く痛みに耐える。

 ポロポロと涙を流し、口の中に血の味が広がる中。

 

 「あ…」

 銀の指から口を離した桜は、そこから血が流れている事に気付いた。

 「ごめんなさい!」

 桜は慌てて謝るが、当の銀は全く気にしていない様子で笑っている。

 「気にすんな、この程度。」

 手の血を舐め取った銀は、その手で桜の涙を拭う。

 「お前だけ痛いんじゃ不公平だろ。」

 

 「えっと…わたしなら…平気…」

 拭っても次々に涙を流しながら、桜は懸命にその痛みを隠そうとしていた。

 「無理すんな…」

 「本当だよ!大丈夫だから!」

 思わず叫ぶ桜に対し、銀は無言のまま入れた物を少しだけ引き抜く。

 「みっ!」

 中を擦る感覚が伝わる度に、痛みとそれ以外の言葉に出来ない感覚が体を突き抜ける。

 さらにもう一度奥まで押し込むと、再び桜の体がビクンと揺れた。

 「みゃうっ!」

 

 銀はそのまま、暫らく動く事無く桜を抱き締めていた。

 まだ小さな桜には銀を全て受け入れる事が出来ず、少し動いただけでも壊れそうになる。

 「銀さん…わたし…大丈夫だから…」

 桜はそう言うが、明らかに無理に痛みに耐えている事が解る。

 「ひゃいんっ!」

 また銀は動き出した。

 だが今度もゆっくりと、ほんの数ミリづつ前後に続けて動いている。

 「ひっ!ふみいいぃぃっ!」

 それでも桜は、気が狂いそうな声を上げながら必死に耐えていた。

 

 「あっ!ふみゃあっ!」

 それからどれくらい経っただろうか。

 何時の間にか桜に痛みは無く、中を擦る感触のみが全身を包んでいた。

 「きゃんっ!」

 一度擦れる度に桜は声を上げる。

 「さくら、痛くないか?」

 「うん…もう…平気だよ…」

 「そうか…」

 桜の答えを聞いた銀は、少しだけ微笑むと、そのまま桜を抱き締める。

 「…ほぇ?」

 その直後、今度は抜ける手前まで一気に引き抜いた。

 「ふみゃあっ!」

 そしてさらに、再び奥に当たるまで強引に押し込む。

 「ひゃうぅっ!」

 痛みが無いと解った直後、銀の動きは急に速さを増した。

 「あっ!ぎっ!ふみっ!」

 苦しそうに叫ぶ桜に対し、銀は唇を重ねる。

 「んっ!はむ…ん…」

 もう考える力もあまり残されていない。

 桜は意識も遠いまま、銀の唇にされるがままになっていた。

 「はん…んっ…ふぁ…」

 口の中で舌を絡め、離れようとしても一心不乱について来る。

 その仕草が本当に可愛く思い、銀は再び離す事無く何度も唇を重ねていた。

 

 「ふみゅっ!」

 不意に、銀は一層強く桜を抱き締めた。

 身動きが出来なくなった桜だが、抵抗する気配は全く無い。

 「ふみっ!きゃいいいぃぃっ!」

 その直後、桜の体を固定したまま、銀は激しく桜を貫く。

 「きゃんっ!銀さ…ふみゃっ!」

 感じた事も無い快楽の連続の中、桜の体も限界が近付いていた。

 

 「きゃんっ!ふみゃんっ!」

 瞬間、桜の秘部が銀を強く締め付ける。

 「みっ!やあああああぁぁぁぁぁっ!」

 

 「あっ!」

 銀もまた、強く締め付けられた瞬間に、先が当たるまで奥へと押し入れた。

 

 (ドクン…)

 

 同時に、銀の中から熱い物が一気に吐き出される。

 その量は予想以上に多く、しっかりと塞がれていた桜の花弁から毀れ出る程。

 

 「…あったかい…」

 何が起こったのか、いまいちよく解ってはいない。

 ただ銀が、自分を好きだからした事と、それだけは解っている。

 「あ…」

 一滴残らず注ぎ込んだ己の物を抜いた銀は、そのまま桜を抱いたまま仰向けに転がった。

 今度は桜は銀の上に乗り、胸に顔を埋め静かに火照った身を落ち着けている。

 

 「…銀…さん…」

 ふと目が合うと、桜はモゾモゾと銀の上で視線を合わせる。

 そして今度は、桜自身からそっと唇を合わせた。

 「ん…」

 今までで一番長く時が過ぎても、離れようとしない。

 感じた事のない胸の高鳴りが、桜に響く。

 (…わたし…銀さんの事…)

 

 阻む物の無い素肌の感触を互いに感じながら、いつまでも離そうとしなかった。

 (…好き…)

 

 

 「ねぇ…銀さん…」

 「ん?」

 胸の上でじゃれる桜の声に反応し、銀は少し首を傾ける。

 「…この傷…何があったの?」

 先程から気になっていた、胸の大きな傷跡。

 もし貫通していたとすれば、生きている事が不思議なくらいの重症の筈。

 「…あぁ…これか…」

 

 一年前。

 銀がまだハーミットと名乗っていた時、この傷は出来た。

 氷を粉砕し、桜を狙う最後の敵に向かったあの戦い。

 クリスの兄、ジャスティ(レイノス・ニールフィ)の手によって付けられたショット(撃)の傷。

 そう、この傷もまた、桜を守る為に出来た大切な勲章。

 

 「何でもねぇよ…」

 「もうっ!そうやってすぐ誤魔化すんだからぁっ!」

 膨れる桜に対し、銀はやはり笑っていた。

 「もうっ!銀さんなんて…」

 何かを言いかけたが、突如言葉を詰まらせる。

 「嫌い…じゃない…」

 「解ってる…」

 銀はまた泣き出しそうになる桜を抱き締め、その髪を優しく撫でていた。

 

 疲れたのだろうか、気が付くと桜は銀の胸で静かに寝息を立てていた。

 (あれから…十六年か…)

 最愛の者と最後に別れた日を思い出し、銀に少しだけ寂しさが生まれる。

 だが、それも桜の寝顔を見ただけで、綺麗に洗い流された。

 (ここにいるんだ…)

 

 

 次の日。

 「…ふみゅ?」

 いつもと違う寝心地に違和感を感じ、桜は目を覚ます。

 「…銀さん?」

 気が付くと、桜は銀の上で全裸で寝ていた。

 それを確認した瞬間、先日の夜の事が鮮明に蘇る。

 「わたし…銀さんと…」

 思い出した桜は、真っ赤になりながらもまだ銀の上に乗っていた。

 そして、再びゆっくりと胸の中に抱き付いていった。

 「…子供だけど…いいの?」

 

 「お前こそ、こんなオヤジでいいのか?」

 「ほええええぇぇぇぇっ!?」

 気付かぬ間に、銀は目を覚ましていた。

 「オヤジって…銀さん確か二十四歳だったよね?」

 暫らく考えていた桜だが、突如笑って銀に答える。

 「大丈夫!お父さんとお母さんも結構離れてたから。」

 

 そんな事を話していると、ようやく桜は自分が全裸である事に気付く。

 「きゃあっ!」

 慌てて身を隠し、そのまま自分の服を取った。

 「銀さん…ちょっと後ろ向いてて…」

 「やだ。」

 桜の申し出を、銀はあっさりと蹴った。

 「ほええぇぇ…恥かしいよぉ〜…」

 「でもやだ。」

 相変わらず表情を変えず、銀は桜を瞬きもせずに凝視する。

 すると桜は、服の中から一枚のカードを取り出した。

 「ダークッ(闇)!」

 「おぉっ!?暗いっ!?暗いぞぉっ!?」

 銀が自分の周辺のみに発生した闇に視界を奪われている間に、桜は早々と着替えてしまった。

 「もうっ!銀さんのエッチ!」

 

 「…さてと…」

 一方、自分も全裸である銀は、被っていた布団に手を掛ける。

 そしてそれを大きく翻すと、一瞬で全ての服を着込んでいた。

 「は…速い…」

 

 ふと桜が時計を見ると、時間は既に八時を回っていた。

 「ほえええぇぇぇっ!遅刻するううぅぅっ!」

 「落ち着けさくら、今日は土曜だ。」

 「あ…そっか…」

 一人で右往左往する桜を他所に、銀は落ち着いて煙草に火を着けていた。

 「なぁさくら、今日はどうせ休みだしよ。」

 「ほえ?」

 「どっか行くか?二人で。」

 そう言われた桜は、満面の笑顔で答える。

 「うんっ!」

 

 玄関で靴を履きながら、桜はまだ嬉しそうにはしゃいでいた。

 「それじゃわたし、一度帰って着替えてくるから。」

 そう言ってドアを開けた瞬間、目の前に疲れた顔をしたスピネルが現れる。

 「ほえええぇぇっ!?」

 「おうスピネコ、生きてたか。」

 銀の対応に対し、スピネルの額に血管が浮き出る。

 「銀っ!貴方って人はそうどうして毎回毎回人を投げるんですっ!いいかげん身が持ちませんよっ!」

 「いいじゃねぇか、生きてんなら。」

 「…いつか絶対復讐してやる…」

 

 その後、木之本家。

 「ただいまぁーっ!」

 「おや、お帰りなさい。」

 「…やっと帰ったか…この夜遊び不良怪獣…」

 家に上がった桜は、そのまま無言で先ずは桃矢に近付く。

 「いっ!」

 そしてその脛に一発蹴りを入れた後、今度は藤隆の側へと向かった。

 「ごめんなさい…遅くなって…」

 だが藤隆は、一つも怒る気配すら見せず、相変わらず笑っていた。

 「仲直り出来ましたか?」

 「うんっ!」

 いつも通りの元気な返事を聞いて、藤隆は満足そうに頷く。

 「よかった。」

 

 「それでねお父さん、今日これから銀さんとお出掛けするの。」

 「解りました、晩くなる時は連絡して下さいね。」

 「はーい。」

 明るく返事をした後、桜は一度自分の部屋へと戻った。

 部屋の中では、相変わらずケルベロスがゲームに熱中している。

 「ケロちゃん、ただいま。」

 「おう帰ったかさくら、どうやった?」

 「大丈夫だよ、これから銀さんとお出掛けするんだ。」

 「さよか、ほな…」

 出掛けると聞いた途端、ケルベロスはゲームを中断し鞄の中へと潜り込む。

 「ちょっと!ケロちゃんはだめっ!」

 「何でやぁっ!?」

 「銀さんと二人でお出掛けするのっ!」

 「せやかてなぁ…まぁあいつが一緒ならそない心配する事はあらへんが…」

 ケルベロスの心配は、他にもある。

 「あいつ…さくらに何か変な事せぇへんやろな…」

 「しないもんっ!銀さんいつも優しくしてくれるもんっ!」

 桜はこの時、本気げ否定していた。

 勿論、ケルベロスの言う変な事の意味を全く理解していない事は言うまでもない。

 

 暫らくして着替えを終えた桜が外に出ると、既に家の前で銀は待っていた。

 「あ…待っててくれたの?」

 「いや、今来た。」

 当然嘘。

 銀は桜が着替えを始める頃には、既に全ての準備を終えここで待っていた。

 「んじゃ行くか。」

 「うんっ!」

 

 何処に行くかも決めてはいないが、二人は歩いていた。

 今の桜には遊びに行く事よりも、二人きりでいる事が楽しく感じる。

 (銀さんが一緒なら…何も恐くない…)

 連日、黄の襲来に怯えていたが、今は不思議と何も感じない。

 (銀さんが…守ってくれる…)

 

 歩いていると、不意に手と手が触れる。

 その瞬間、桜は戸惑いながらも銀の手をそっと掴んだ。

 だが、今度は銀が掴んだ手に指を絡めてくる。

 「もっと…近くにいていい?」

 「あぁ。」

 それを聞いた直後、桜は差し出された腕にしっかりとしがみ付いた。

 寒くなってきたこの季節も、二人には関係なく、温もりを感じる。

 

 

 「…さくら…」

 

 その時だった、銀ではない、別の場所から桜を呼ぶ声が聞こえてきた。

 「ほえ?」

 正面を見ると、そこには一人の少年が立っていた。

 「…嘘…何で?」

 よく見知った顔、今は日本にはいない筈の少年。

 

 「小狼…君…」

 

 

 


解説

 全員集合おおぉぉぉっ!

 さぁ〜遂に再会しましたこの二人(いよぉベンベン)いったいこれからどうなるかっ!

 しかも…

 タイミングは最っ悪だあああぁぁぁぁっ!

 

 いや〜…今回苦戦したなぁ…Hシーンは苦手だっちゅ〜のに…

 全文の1/3を使ってしまった…

 

 そいじゃいってみましょうっ!今回のタイトルテーマのコーナーッ!

 勿論有名ですね!平井 堅さんの名曲「Kiss of Life」

 もう構成当時から「さくらちゃんの初体験はこの曲じゃっ!」って決めてたのぉ。

 キャロもカラオケで最低でも一度は歌う曲ですにゃ。

 

 っつー訳で、も〜次からは激動の流れになること間違いナッシング!

 今後の二人(銀&小狼)にご期待下さいなのだっ!

 

 裏話。

 今回のさくらちゃん、銀ちゃんに抱かれている時は『全裸』と記述してありましたが。

 靴下だけは履いてました。

 後の銀談「俺流のこだわりだっ!」だそうです。

 


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