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『聖真高校?!』
海豚の進学先を聞いた女生徒三人は、素っ頓狂な声を挙げた。
・・・あれから、数ヶ月。 別の男や痴漢に襲われず・・・の以前に、襲っても手やサオが溶けてしまうが・・・平穏無事に、中学三年の夏休みを迎えようとしていた。 終業式を迎え、教室で進路に関するプリントを渡され、海豚は迷いも無しに彼女たちに宣言したのだ。 よって、先ほどの声が木霊[こだま]したのだ。
彼女たちは海豚の額に手をやった。
「熱は・・・無いね?」
「だけど・・・あんた、そんなに頭は良くないはず・・・」
「あそこ、結構、有名な進学校だよ?」
口々に言う同級生に、海豚は少しだけ告白した。
「好きな人の夢を、手伝ってあげたいだけだよ・・・」
「ああ、そう・・・・・・って・・・!」
思わず聞き逃すところを、なんとか持ちこたえ、叫んだ。
「彼氏・・・居たの?!」
「そんなのじゃないよ!」
海豚は顔を朱に染め、呟くように言った。
「旦那様・・・かな・・・・・・」
「ってことは・・・」
三度絶叫・・・しなかった。
「祝! 海豚、処女消失!」
「それを言うなら喪失でしょうが!」
「でも、それ、本当なの?」
海豚は炉心溶融[メルトダウン]の顔で、こくりとした。
「で、でも! 私は、その・・・嫌だったから・・・」
「無理やりさせられたの?!」
「じゃなくて! ・・・あの人以外の人に、『初めて』を盗られたくなかったから・・・」
「あ、だから・・・」
「それに、種を蒔いてもらったけど、安全日だったし・・・・・・」
「・・・ま、中学生で孕んだら、社会の目の敵にされるのがオチだものねぇ〜」
流石に、後ろのまで捧げたことは恥ずかしすぎて言えなかったが(以前に言う必要も無いのだが)、そんな下ネタの会話で同級生は楽しんでいた。 海豚はボー・・・っと、窓の外を眺めていた。
「・・・だけどさ、海豚って変わったよね?」
「言われてみれば、そうだよねぇ」
突然、自分の話題になって、きょとんとした。 第一、変わったといっても、何処が変わったのか・・・?
「前は、なんか・・・寂しげでクールと言った感じだったね?」
「それが今じゃ、明るくなって、彼氏ラヴ!・・・だもんねぇ〜!」
「それどころか、すっごく可愛くて、綺麗になったし・・・」
「・・・私、そんなにクールだったの?」
「そりゃあ、もう・・・誰にも近づけさせない!って感じで・・・」
「・・・んで、小四の夏過ぎた頃から、明るくなりだして・・・」
「そうだったんだ・・・」
これも巽のお陰であろう。 少なくとも、それ以前は・・・確かに寂しかった。
母の鯱子は民宿の女将として働き、あまり母親らしいことはしていなかった。 そして、父親も・・・物心付いた頃には、既に居なかった。
・・・と、担任教師が教室に入ってきた。 通信簿を配るためである。 次々と名前が呼ばれて行き、海豚の番になる。
「臨海海豚」
「はい!」
あまりに元気のいい返事に、担任教師も内心で驚いていた。
「すごいな・・・英語がこれで三連続Aだぞ」
『すごーい!』
クラス全員から、誉められたが・・・
「その代わり、数学がC止まりだぞ? ま、せめてBを維持するくらいでがんばるようにな」
Aを取れ、とは言わないのが救いだったが、
「はい・・・」
海豚はしょんぼりとしたので、クラスの失笑を買ってしまったのだった。
「んで、家庭教師として、呼ばれたわけね・・・」
「すみません、巽さん・・・」
海豚の自宅、『鯨亭』の二階で、巽は薄いため息を吐いた。 まあ、それだけなら・・・海豚だけなら、『ほかの楽しみ』もあるのだが・・・。
『よろしくお願いしま〜す!』
海豚の、三人の同級生の声に、巽は指で頭を支えた。
「ま、お預けってことか・・・」
「うにゅぅぅぅ・・・」
海豚は残念そうな顔で俯いた。
「んじゃま、ちゃっちゃと宿題も片して、夏休みを満喫しようぜ!」
『は〜い!』
しかし・・・それは前半だけであった。 後半は既に、『女の井戸端会議』と化していた。
「ところで、海豚としたんですか?」
「ひでぶぅ!」
痛恨の質問に、首をはねられた気がした。 ちらりと海豚を見ると・・・諦め顔で横に振った。
「ああ、する分には・・・したよ・・・」
「じゃあ・・・海豚の初めてを貰った感想は?」
「な!」
何故、そんなことで言わなくてはならないのか? 巽は不思議でならなかったが・・・
「巽さん・・・もういいですよ。 貴方まで、無理をする必要もありせんよ」
という視線で、海豚は巽を見つめていた。 仕方がないと、巽は深く溜め息を吐き出して言った。
「絶対に・・・幸せにしてみせるって、思ったよ。 不幸にさせて怨まれても構いやしないってね」
『・・・・・・』
巽の意外なセリフに、しばし沈黙し・・・
「海豚の幸せもん!」
「こんなカッコイイ旦那に、こんなこと言わせるったぁ、罪作りな女だね!」
「え、ええ!?」
海豚は赤い顔で同級生たちにおちょくられていた。
「・・・で、もう一つ・・・」
「今度はなんだい?」
嫌な予感を感じつつ、巽の問いに悪びれもせず一人が言った。
「アナルもしたんですか?」
「ごべぇえ!」
・・・もう覚悟を決めて(なんの覚悟だ?)、巽は答えた。
「・・・したよ。 けど、それ以上は黙秘権を行使する!!!」
「ええ〜〜〜!」
有無を言わさぬ迫力に、ミーハー根性たくましい同級生たちは黙ってしまった。
「さ、勉強勉強!」
『は〜い・・・』
かくして、勉強は再開された。
「ここはどうやるの?」
「これどういう意味?」
「『まかなう』ってどう書くの?」
云々という質問攻めにも、巽は嫌な顔一つもせず、答えていった。 海豚も数式が分からなくて、巽に質問した。
「巽さん、ここは?」
「あ、ここはね、海豚・・・」
途端に二人の雰囲気が変わる。 穏やかな・・・こちらまで、優しい気持ちになれる、そんな雰囲気を醸し出していた。
「なんか・・・」
「わたしたちって・・・」
「お邪魔・・・ってヤツだね、こりゃ・・・」
かと言って、このまま引き下がるわけにもいかなかったので、田舎の癖にヒートアイランド現象をまじかに感じつつ、勉学に励んだ。
「・・・んじゃ、一息淹れるか?」
「はい!」
と、一行は台所に向かい、地元で採れた(しかも、近所からのおすそ分けされた)スイカを巽が切り、海豚は麦茶を淹れ始めた。
「・・・仲いいね〜・・・二人とも・・・」
『そうかな?』
何故かハモってしまった。
「さて、スイカも切ったし・・・」
「麦茶も冷えてますし・・・」
縁側に座り、向かって左から、海豚、巽、同級生の小さい娘から背の順・・・と並んだ。
「美味し〜ぃ!」
渥美の潮風にスイカと麦茶。 なかなかの風流で、殊に巽と海豚は・・・
「ほら、海豚・・・種、付いてるよ」
「え?」
海豚の頬に付いたスイカの種を指で取った。
「あ・・・有難う御座います・・・」
海豚の顔はスイカの中身になってしまった。
「じゃあ、わたしらは・・・」
「帰るとしますか」
「だね・・・」
同級生たちは午後の勉強を、キャンセルすることにした。
「え? 帰るの?」
「だって、ねぇ〜?」
『ねぇ〜』
なにが「ねぇ〜」なのか、二人は見当も付かなかった。
「そいじゃ、お邪魔なわたしらは、別口で勉強してくわね」
「じゃあね、海豚。 ごゆっくり!」
「???」
海豚はハテナマークを頭上でドッグファイトさせて、同級生たちに手を振った。
「なんか、二人っきりになっちまったな・・・」
「ですね・・・」
二人は何とはなしに見詰め合い・・・・・・口付けた。
「・・・でも、すること済ましちまったらな?」
「ですね・・・」
再び二階に昇り、午後の勉強を済ますと・・・肌を重ねたのは言うまでもない。
「・・・で、聖真高校に進学するのかね?」
二学期を終え、暫らくたったある日。 進路指導相談に呼ばれた海豚は、素直に自分の進路を打ち明けた。 将来の夢も。
「しかしだね・・・もう少し成績を上げないと・・・受からないよ?」
「偏差値足らず・・・ですか?」
「そうだ。 ・・・で、君に提案なんだが・・・」
進路指導の教師は海豚の身体を、まじまじと眺め回した。 舐めまわすような不快極まりない視線は、海豚に赤信号を灯らせた。
「どうだい? おれと寝ないか?」
「・・・寝るんでしたら、お一人で眠れるはずですが?」
「いや、そういう意味でなくてだな・・・」
海豚ににじり寄る。
「君だって卒業すれば、一人の女だ。 そこで、おれに抱かれれば・・・合格させてやっても良いんだぞ?」
蟻走と嘔吐と寒気を同時に感じて、普通の少女なら怖気づき事を成されてしまうだろうが、海豚は違った。 海豚が怒号出来たのは、巽への想いと、そりに伴う勇気によってだった。
「そんな手を使うなら、実力で不合格になったほうが、まだマシです! 第一、先生に抱かれるほど、私は尻軽じゃありません!! それでも抱きたいのなら、私、遺書を書いて舌を切ってやりますよ! 名指ししてね!」
一息でここまで言った海豚に肝を抜かれ、ついで逆ギレした。
「躾のなっていないガキが! どうせだ、おれが女にしてやる!」
「躾のなっていないのは、そちらでしょう?! 私は実力で合格して見せますよ! あんたなんかに頼ったら、ご先祖様に恥をかかせてしまいますからね!!!」
「この、青二才めが!」
と、教師は海豚に掴みかかろうとした・・・!
「ありがとう、巽さん・・・あなたのお陰です・・・」
進路相談室から、海豚一人だけが出てきた。
「日本語が理解できると前提して、言っておきます。 私の身体は、とっくに女になっているんですよ。 私を本気で愛してくれる人に、あなたのような存在に盗られる前に捧げたんです。 私は、その人の為だけの身体なんです!」
海豚の性格からは、到底考えられない辛らつなセリフを吐いて、男の急所を完全に溶かされた教師を一瞥した。
「私、合格します。 絶対に、あの人の元で、幸せになって見せます。 その時に、せいぜい吠え面をかいててください」
冷ややかな一瞥は、虎崎獅竜鳳に関わった人間特有の、氷点下二桁を下回る視線であった。 その者の家訓に、こうある為に。
『鬼畜と呼ばれる存在は、人間でも動物でもない存在だ。 故に、基本的人権も動物愛護も、かの存在には適用されず、それを護る必要もない』と。
こうなると、海豚の立場が危ぶまれるが、それも獅竜鳳の「仕事」により、仕掛けた教師の立場の方が、危うい所が社会的抹殺に代わった。 懲戒免職に死亡届と戸籍抹消、カード類使用不可、郵便貯金及び銀行口座抹消、知人や肉親の彼自身の記憶までも抹消され・・・社会的に彼は存在していない状況になってしまった。 女性に淫らな手を出せば、最低でもこうなってしまうのである。
というわけで、海豚は無事に中学を卒業した。 そして・・・春。
「巽さ〜ん!!」
例年より早く咲き、今では僅かしか残らなかった桜が、最後の演出として花弁を散らして雪を降らしていた。 その桜の雪が降るなかを、一人の少女が駆けて行く。 深海色の髪を揺らし、初々しい姿を愛する人に見せるために。 かくして・・・。
「た〜つ〜み〜さん!」
ガバァ!
「うぉっとぉおぉぉぉ?!」
巽は驚きの声をあげ、しかし、踏み止まり倒れはしなかった。 後ろから抱き付いてきた少女に振り向きざま、微笑んで言った。
「海豚・・・入学、おめでとう」
「・・・って、すみません・・・ちょっとやり過ぎましたか?」
「宣伝にやり過ぎと遠慮はないってね。 ま、ちょっと驚いたけど」
巽は海豚の髪を優しく撫でた。 海豚は嬉しそうに、巽の腕に抱き着いた。
「お、おいおい・・・あんまりくっ付くと先生に、とやかく言われるぜ?」
「だって、嬉しいんだもん! 巽さんと一緒の学校に通えるんですもの・・・」
「でも、一応世間体ってものもあるからね・・・学校の外で普段着だったら、いつでも相手してやれるからさ」
「はい!」
と、校門を潜ろうとした時。
「待てぇい!」
「っ?!」
突然、髪を引っ張られ、海豚は悲鳴を挙げそうになった。 校門で教師が『乱れた服装』をしている生徒を捕まえて、私刑[リンチ]にかけていたのだ。 尤も、それは今、崩壊することになるのだが・・・。
「わしの目の前で髪を染めているとは、何事だ?!」
「そ、染めてなんか・・・?!」
「では、この髪はなんだ!?」
海豚の髪を引き千切らんばかりの教師の頭上に、手が覆い被された。
「くっ?!」
手の主は、巽だった。
「俺の海豚の髪を引き千切ろうとするんなら、こちらも容赦しない。 あんたの髪を先に引き千切ってやる」
静かだが、激しい怒りの声で、教師を睨んだ。
「それが嫌なら、その汚れた手を離せ。 彼女が穢[けが]れる」
教師は素直に従った。 海豚はさっと巽の元に寄り、巽は開いた手で海豚の頭を抱いた。
「た・・・頼む・・・離してくれぇ・・・」
巽は海豚に目配せした。 海豚は目を伏せ、耳を塞ぐと・・・巽は教師の懇願の半分を実行した。
びゃりぃぃぃぃぃぃ!
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
教師の残り少ない髪の毛を、毟[むし]り取ったのだ!
「あんたが海豚にしようとしたことを、ちゃんと返してやったよ。 第一、海豚を離したらこちらも手を離すとは、一言も言ってないぜ?」
教師の髪を放り捨て、巽は周りの男子たちに宣言した。
「これだけはハッキリ言っておく。 俺の海豚に手を出したら、これ以上の苦しみを味わうものと思え! この宣言は、彼女が卒業するまで有効だからな、卒業してからものにしようなんて考えは、今捨てておけ!」
その瞳は『愛する人を護る者』・・・異界において、『ブローディア』の称号を持つ者と同じだった。 護る者の瞳は彼らに脅威を、女生徒に安心感を与えた。
「海豚・・・行こうか」
「はい!」
二人は学び舎へと、脚を踏み入れたのだった。
中学生編 了
「海豚物語(高校生編):その5『NEVER SARENDER』」へ
なにげにエロく、しかし、全然エロくないエピソードで、第一幕は降りました。
そして、第二幕の前に、外伝を一つ。 名前と回想にしか登場しなかった獅竜鳳と洸の二人のエピソードを書く予定です。
それぞれの過去[むかし]を夢として、現で二人肌を重ねて・・・になるはずです。
あくまでも「予定」でありますので、御了承ください。
なお、劇中に登場する地名はともかく、実在の人名や組織、事件などは架空のものであることを『堅く』お断りします。
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