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シスタープリンセス・バトルロワイアル 第2章
アストロ・スイーパー/文


 06 流れ始めた三途の川

 

 12月24日 AM0:00 東京都江東区有明 国際展示場東京ビッグサイト

 

 海神花穂(女子2番)はすうぅっと息を吸いこむようにして深呼吸し、身体を起こすとようやくあたりが妙に暗い事に気がついた。少しめまいもして倒れそうになった。

 ……あれ?もう授業終わったのかな?って事は今は放課後、この暗さだと夕方か夜……、ええ〜!!!何でみんな起こしてくれないの〜?ひどいよ……。……あれぇ?みんないる……?可憐ちゃんも四葉ちゃんも……?他の皆も……。みんな寝てるの?先生に怒られちゃうよ〜、みんな……?

 花穂は自分の席からざっと全体を見まわた。教室……と最初に勘違いしたのも無理は無かった。席順が彼女達のクラス、3年B組のままで錯覚したからだ。実際には、窓のない室内、黒板の代わりのホワイトボード、チョークの代わりの水性ペン、そして、学校のよくあるパイプと木でできた机の代わりの長机(脚の所が折りたたみで、たまにPTA会議とかで使われる安っぽい長い机である。)、折りたたみのイス……。ちょっとした事務所の一室を教室風にしただけで、学校のそれとは全く違っていた。

 ここ、どこなの……?

 後には丁度、海神千影(女子6番)、一番後ろを見ると海神亞里亞(女子1番)がすやすやと寝ていた。花穂が話しをかけようとした時……突然、パララララ……と音が外に鳴り響いた。ヘリコプターの音だと花穂は悟った。この音でほとんどの生徒達は目を覚ました。

 「う〜ん、どこここ?」

 「……ありり?」

 「……ファック。」

 頭が混乱したさなか、それまで薄暗かった灯りが(その時花穂は外の廊下みたいな所から灯りが漏れていた事にも気がついた。)急に明るくなったかと思うと、その今いる部屋の電灯が点った。ちかちかっと蛍光灯が光をもたらし、一定の明りが室内に広った。花穂は目に光を浴びて少し顔をしかめたが視線はその時、がらっと入って来た少年に注がれた。

 ……お兄ちゃま?

 

 【残り17人】

 

 

 07 女子十番・海神鞠絵

 

 海神花穂(女子2番)は室内に入ってくる人間達をただ見届けていた。少年は紛れも無く海神航(男子2番)だった。黒い服を着た人も何人か入ってくる。

 お兄ちゃま……一体これは何なの?

 「……私達は……プログラムに選ばれたのか……。」

 !!!……千影ちゃん……?

 花穂から後の席、海神千影(女子6番)が独り言のように言った言葉は、クラスのみんなをぎょっとさせるのに十分な効果を与えた。

 航:「……さすが千影ちゃん。察しがいいね。」

 いつもの明朗な航の声が聞こえた。

 航:「みんな、よく眠れたかい?もう皆起きているよね?」

 唯一、山田太郎(男子4番)だけがいびきをたてながら爆睡している。

 「……アニィ、これ、なんなの?」

 海神衛(女子9番)が不安そうな顔をしながら航に質問する。

 航:「…今、順を追って説明するからね。」

 それに絆されずに快活な声で答える航。

 やっぱお兄ちゃまは優しいな……。花穂達を不安にさせないもん……。

 航はホワイトボードに『SPBR法』と書き込む。

 航:「……みんな、なんで皆はこんな所にいるか分かる?」

 相変わらずいつもの明るいペースを保つ航。

 航:「さっきも千影ちゃんが言ってくれたんだけど、僕達のクラスは、プログラムに選ばれたんだ。」

 プログラム?プログラムって、何……?

 花穂はこの不安なシチュエーションで決して憂いのある表情は見せなかった。

 大丈夫だよね……?お兄ちゃま、優しいもん……。

 千影だけはプログラムの意味を熟知している様子で、深刻そうな表情を見せていた。花穂はどちらかというと安心はしている方だった。していたが……次の航の言葉が花穂の思惑をこうも簡単に変えてしまった。

 航:「そうそう、プログラムの説明をしないとね。プログラムっていうのはね……。」

 バァァァァン!!!!!!!!!

 キャッ!!!何の音!!!

 耳を劈くような大きな音が花穂の耳を響かせた。プールに潜っている時のように外の歓声は聞こえても何を言ってるのか聞き取れない、そんな感じだ。

 ――――まだ、耳がおかしい……。声が聞こえない。

 航が誰かに視線を向けているのが分かった。花穂はその視線を追ってみた。

 「どうして……兄上様……。」

 一瞬だったが花穂は声を聞いた。どさっと何かが倒れた音が聞こえたのは、はたして耳かそれとも振動を感じ取ったのか、とにかく花穂は横を見た。……左のこめかみの所に小さな赤い噴水を作った、海神鞠絵(女子10番)の姿が見えた。鞠絵は花穂のすぐ左の席、そこから花穂との間のところにどさっと、落ちた。そして、ようやくかすかに花穂は航の声だけが聞こえてきた。

 航:「――――殺し合いの事なんだよ。」

 

 『……私の想いが、兄上様に編んだセーターの網目を通して伝わりますように……。』

 

 【女子十番 海神鞠絵 死亡 残り16人】

 

 ……私は……花穂は、目を疑いました。なおも快活な声でいるお兄ちゃま、そのお兄ちゃまの手に固く握られた黒く、先端に穴の入った凶器、そして、鞠絵ちゃんが動かなくなった事、何よりも……お兄ちゃまが鞠絵ちゃんを殺した事……。花穂は、身震いを覚えました……。

 

 【残り16人】

 

 

 08 戦慄の少年

 

 「……ごめんね、鞠絵ちゃん。説明中めまいなんか起こしている人はプログラムの参加なんて夢のまた夢なんだ。」

 海神航(男子2番)は今もなお快活な声で言った。

 私は思わず泣きそうになりました。ひどい……ひどすぎるよ!!!お兄ちゃま!!!

 海神花穂(女子2番)はただ震え上がっていた。

 航:「じゃ、説明に入ろっか。じいや、入ってきてくれ。」

 航の執事、じいや(SPBR担当教官)が室内に入ってきた。

 じいや:「みなさん、こんにちは。今回このBR大会の担当教官を勤めるじいやです、ヨロシク……。」

 先生……?

 そう、海神航の執事に当たる存在であるじいやは、妹達含むこのクラスメイトの教諭でもあった。

 航:「……いいかいみんな、よく聞くんだ。この国は、すっかりダメになってしまいました。だから、偉い人たちは相談して、この法律を作りました。新世紀教育改革法(しんせいききょういくかいかくほう)、通称BR法。人呼んで……」

 「バトル・ロワイアル!!!!」

 硬直の気が一面に過ぎった。

 航:「そこで今日はみんなに、ちょっと殺し合いをしてもらいます。最後の一人になるまでです。反則はありません。」

 な…何を、何を言ってるの?お兄ちゃま……。一体何を……!!

 突然、音を立て海神咲耶(女子4番)が立ち上がった。

 咲耶:「お兄様……なんでこんな事をするの!!!ひどすぎる!!!」

 声が明らかに震えている。

 航:「…………ふざけるなよ?」

 花穂はビクッときた。他のクラスメイト達もそれは同じだろう……。妹で最年長の咲耶ですら恐怖に押しつぶされている。航は咲耶の近くによってくる。

 ……今まで見た事も無いお兄ちゃまの悪魔の様な表情、今までの明朗な声とは信じられないほど聞いた事の無いひどく冷たい声が花穂の目と耳を焼き付けました。そして……明らかにお兄ちゃまは残酷にも微笑していました。……本当に……お兄ちゃまはお兄ちゃまなの?

 航:「……お前等の所為だろ?SPBRが制定された原因も……。俺はお前等と同じ様な事をしただけだ。違うか?ん?」

 咲耶:「うっ……!!!」

 航は咲耶の襟首を掴む。

 怖い、怖いよ……お兄ちゃま……。

 花穂は身震いをしながらも恐怖に耐えていた。航は襟首を離す。咲耶は気が抜けたように席にだらんと着席した。そして視線は全体の生徒達に向けられた。

 航:「……てめぇら俺が気付いてないとでも思ったのか……?下手な演技をやり腐りやがって……。ぶっちゃけた話、笑ったぜ、頭の中でな。反吐が出るくらい笑ってたよ。お前等の非道さには愛想が尽きたよ……。一方的に俺だけを追求して、他の奴はどうでもいいのか、ああ!?」

 お兄ちゃま……確かにこのごろ花穂達姉妹の仲はすごく悪かった……。大怪我のおきない日なんてなかった……。花穂はそういう争いに加わる事は無かったの。やっぱりこんなの変だから……。でも花穂はだれかが争っていても止める事ができなかった。……怖かったの。怖かったんだよぉっ……!!!

 航:「つまり、つまりだよ、お前等の治安の悪さを用いて俺が都内政府にこういう状況を説明したら頼もしく俺の申請を承ってくれたって事だよ。幸いにもプロミストアイランドは警察機構がいまだ充実していなかったからこれまでは助かったものの、今自分達の行いを後悔する時が来たな。ありがたく思え……。」

 航が教壇に戻ろうとした時だった。

 航:「……てめぇ!!!いつまでも寝腐ってんじゃねぇ!!!」

 バン!!!

 「ぐわぉあっ!!!」

 ……山田太郎(男子4番)が目を覚ました。

 

 【残り16人】

 

 

 09 男子四番・山田太郎

 

 な……何なの、これ?……お兄ちゃん!!!

 海神可憐(女子3番)も海神花穂(女子2番)同様、震え上がっていた。

 「じゃあじいや、さっさとルール説明してあげて。」

 海神航(男子2番)は先程の明朗な声に戻してじいや(SPBR担当教官)に説明を要求した。

 じいや:「そうですねぇ、そろそろ始めましょう。皆さんにはこれからテレビ、しかも生中継を見てもらいます。これでしっかりとルールを抑えてください。」

 じいやが教壇の前にあるTVにビデオを入れた。

 『シスタープリンセス・バトルロワイアルの正しい戦い方:監修SPBR法推進委員会』

 テレビには風変わりな少年と少女が映る。

 「やぁ、星見が丘西学園3年B組のみんな!!オッス!!俺、マック大和(SPBR法推進委員会)っていうんだ!!よろしくな!!」

 「私はミッチー(SPBR法推進委員会)!!!みんな、いつもテレビではありがとう!!!」

 ……アニメーション?

 可憐がふっと思惑を立てたとき突如、後ろの席がガタッと音を立てた。

 「ウッヒャーーーーーーー!!!ガルバンだーーーーーーー!!!」

 バン!!!

 航:「……山田、もうちょっと静かにね……。」

 山田太郎(男子4番)はとっさの興奮で声をあげていた。

 大和:「じゃ、早速だけどルールを説明するぜ!!!みんな!!!」

 ミッチー:「準備はいい??」

 大和:「今回の舞台は東京都の臨海副都心だ!!!」

 テレビの中に副都心の地図が浮かび上がる。

 ここは……お台場?いつの間にこんな所へ……?

 ミッチー:「ここは海に囲まれていてほぼ脱出不可能なのよ〜!!!すごいでしょ!!!」

 大和:「みんなが今いる所はこの地図の南東部、東京ビッグサイトなんだ。」

 ミッチー:「ここで、みんなが戦ってるのを先生達が見守ってるって訳〜。お台場にいる人には全員出て行ってもらって、誰もいないのよ〜。だ・か・ら、派手にやり合ってね〜。」

 大和:「お〜ありがたや〜。よし、じゃあ次に荷物について説明しておくか。」

 ミッチー:「さて、一人ずつ2分間の間隔でここを出ていってもらう訳なんだけどー、それぞれ出発する前にこの荷物を渡しまーす。中には武器や食料、地図やコンパスが入っていますので各自確認してくださいな。」

 大和:「いいかい?ここを出たら、どこへ行っても構ないぜ。けど、午前、午後の零時と六時に、お台場全体に放送を流すぞ、一日四回だ!!!ちゃんとメモしとくようにな!!!そこで、この荷物に入ってる地図に従って、何時からこのエリアは危ないと伝えるぜ。地図を良く見て、磁石で地形と照らし合わせて、速やかにそのエリアを出ておけよ?なんでかというと……みんな、首の部分を触ってみな。」

 可憐はすかさず首の部分を触った。とても冷たく――イヤな感触がそこにあった。――――首輪だ。可憐はすでに気がついてはいたが(何しろ振り向いたりする度に擦れて気になる)、ちらほら「えっ」と声が上がった。初めて気がついた者もいた様だ。

 ミッチー:「その首輪は完全防水、耐ショック製で―――あーダメよ、絶対外れないわ。それに無理やり外そうとすると……。」

 航:「……爆発するよ?」

 航がミッチーの代わりに説明すると、首輪をいじっていた何人かが慌てて手を離した。

 航はニヤッと笑っている。

 航:「ミッチー、説明続けて。」

 ミッチー:「オッケー。航君って本当に面白いわね〜。」

 航:「そりゃどーも。」

 ミッチー:「今、航君が言ってくれたように〜、首輪は強引に外そうとしたり、禁止エリアに残っていたり、地図以外の地域に出た場合は容赦なく電波を送っちゃうわね〜。すると、警告音を出してボンって爆発しちゃうの〜!!」

 大和:「みんな!!!楽しいゲームにする為にも絶対そんなことするなよ!!!」

 ダン!!!

 山田が机を強く叩いた。

 山田:「こんなの……こんなの、ミッチーじゃない!!!」

 山田さん……冷静にならないとまたお兄ちゃんに……

 航:「……ねぇ山田。3回目……レッドカードだよ。」

 航、じいやが持つリモコンを使って山田の首輪に向かって電波を送った。

 ピッ……

 航:「丁度良かったじゃないか……。首輪の威力を皆に見せておきたいし、それに……さっきの銃撃で呼吸するのも実は困難だったんだろ?」

 突如、首輪が警告音を出し始め、航が持つタイマーには『REST 30.00 SECOND』と映る。

 山田:「おい、なんだよこれ……?」

 ピッ……ピッ……ピッ…ピッ…ピッ…

 警告音の間隔が縮んでいく……山田は席を外れ、あたりで暴れ始めた。

 お兄ちゃん……まさか……!!!

 可憐は山田のこの後の姿を想像した。

 可憐:「お兄ちゃんやめて!!!山田さんの首輪を止めさせて!!」

 挙句の果てに可憐は声を上げてしまった。

 花穂:「お兄ちゃま!!もうこんな事やめて!!お願い!!」

 花穂も泣きながら航に哀願した。

 航:「……みんな、しっかり見とくんだよ、首輪の威力を。」

 山田:「誰か助けてくれよ……!!!」

 席に座っていた可憐含むクラスメイト達もついに席を外れた。

 航:「じいや。出走取消、男子四番山田太郎ね。」

 じいや:「はい、航様……。」

 山田:「おい!!ふざけるな!!ミッチー助けて!!」

 大和:「山田君、残念だよ。せっかく俺達のファンでいてくれたのに……。」

 ミッチー:「ウフッ、あと10秒くらいね。」

 ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピピピピピピ……

 山田は他の生徒にがっつくが飛ばされる一方だ。航の持つタイマーが残り10秒を示している。

 「止めて!寄らないで!!」

 「あっちへ行って!!」

 「きゃっ!!どこさわってんのよ!!どこからどこまでもド変態!!」

 ピピピピピピピ……

 タイマーは既に残り5秒を示す。

 山田:「ぅぅぅぉぉああああああああ!!!!!わたるぅぅぅぅぅぅ!!!!」

 これが最後の山田の言葉となった。

 可憐:「お兄ちゃん!!!」

 航:「……おやすみ、山田。」

 ピ――――――

 航の持つタイマーが0秒を示した。

 パシュウウウウウウウウウウウウウッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!

 航が山田に手を振ると同時に室内に異様な音が鳴り響いた。可憐は自分に降りかかってくる緋色の液体など信じられないほど気にせず、スローモーションでも見ているように山田が赤い軌跡を作りながら倒れるのを見ていた。

 ミッチー:「きゃー、きれいな噴水♪」

 航:「大人しくしてればいいものを……どこからどこまでも哀れな存在だったな……。」

 

 『航、将来は…お兄ちゃんと呼ばせてくれよな?』

 

 【男子四番 山田太郎 死亡 残り15人】

 

 血なまぐさい臭いが室内に漂った。可憐はあやうく山田の遺体を見て、胃の中のものを戻すところだったが何とか耐えた。

 航:「はい、席についてみんなー、でないと……。」

 ハッとして可憐含む生徒達は反射的に席に座った。

 バン、バン!!!

 もはや聞きなれた、何発も鳴り響く銃声に耳の感覚が麻痺しかけていた。

 「……!!!」

 航:「全く、勝手に席を外れて……何回言ったらわかるのかな?」

 ……今度は、誰が撃たれたの?

 

 【残り15人】

 

 第3章へ続く

 


解説

 妹達に業を煮やしてしまった少年、海神航は友人、燦緒と皆井、そして自らのコネによって、シスプリ・バトルロワイアルを制定、実現……。

 果たして航はこの後どのような行動をとるのか、この後の妹達の行動も見逃せません。殺る者、殺られる者、脱出を試みる者、兄に喜んで殺られる者、友人を裏切る者、狂う者、改心する者……。妹達にとって航とは……お兄ちゃんとは、光なのか、はたまた、闇なのか……。

 彼達の過去への巡礼は、今、始まったばかりだ……。

 

 【残り15人】

 


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