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追憶の梟 第四話「Mirror」
キャロン/文


 香港。

 

 常時賑やかなとあるストリート、そこに歩く一人の少年がいた。

 何か目的があって歩いている訳では無く、ただ周辺を見渡しながらブラついている。

 しかし、その目は何処か殺気立っている様にも感じられた。

 

 「小狼、何怖い顔してるのよ?」

 いきなり声を掛けられた少年、李 小狼は、驚いた様に声の方向に振り向く。

 「?…何だ…苺鈴か…」

 「何だはないでしょっ!何暗い顔して歩いてるのよっ!」

 そう聞かれても、小狼は何も答えずにまた歩き出した。

 「ちょっとっ!何処行くのよっ!」

 苺鈴が呼び止めると、険しい顔のまま小狼は再び向き直る。

 「苺鈴…あまりおれに近付くな。」

 その言葉を聞いた苺鈴は、一瞬驚いた様な顔を見せたが、すぐに怒り出し小狼に詰め寄る。

 「それどーゆー意味よっ!婚約解消したからってそこまで避けるっ!?」

 「い…いや…そうじゃない…」

 苺鈴の迫力に押され、今度は困った顔をしながらジリジリと下がった。

 「だいたい何怖い顔しながら歩いてるのよ、木之本さんと喧嘩でもしたの?」

 「さくらか…いや、最近は連絡が来てない。」

 「そう、それじゃ何…って…ちょっと待って…来ない?」

 何か今の言葉に疑問を感じ、苺鈴は暫し考え込む。

 「小狼…自分から電話した事…ある?」

 「へ?…いや。」

 小狼の無表情な答えを聞いた瞬間、また苺鈴の顔が怒りに染まる。

 「何考えてるのよっ!連絡が無くて不安じゃないわけっ!違う男の子とラブラブになってたらどーすんのよっ!」

 「それはない…さくらはおれを好きだって…言ってくれたんだから…」

 安心し切っている小狼の表情に、苺鈴のフラストレーションは頂点に達しようとしていた。

 「バカァッ!!」

 怒号に押され、怯みまくる小狼に対し、苺鈴は尚も凄まじい形相で詰め寄り続ける。

 「いいっ!女の子ってのはねっ!好きな人の事は確かに大切だけど!もっと好きな人が出来たらそっちに傾いちゃうものなのよっ!」

 「まさか…さくらに限って、そんな事…」

 「友枝にいた頃には色々と噂してたのよ、木之本さん狙ってる子って、結構多いって。」

 「だからってっ!そんな事は絶対ないっ!」

 あくまでも強気な小狼の態度にも、苺鈴は一歩も引かずに叫び続ける。

 「何でそう言い切れるのよっ!そこまで行くと信用って言うより他力本願よっ!」

 「一番好きだって言葉は軽くないっ!他の男を好きになるなんて、そんな事…」

 「じゃあ何よっ!小狼はわたしがずっと小狼を好きなままで困らないのっ!?」

 その一言を聞くと、小狼はすっかり黙り込んでしまった。

 「どんなに好きでもね、大切にして貰えないんじゃいつか心も離れちゃうのよ…それなのに声も聞こえないなんて…」

 黙り込んだ小狼だが、突如その表情は険しく変貌する。

 「…静かだ…変だな。」

 普段から喧騒が絶えないストリート、それが昼間だと言うのに、余りに静か過ぎる。

 周辺には常に人が溢れている筈なのに。

 「まさか、今の騒ぎでみんな逃げちゃったのかな?」

 「…いや…それはない…」

 苺鈴の一言に、疲れた様子で軽く突っ込む。

 例えマフィアが通ろうと、人っ子一人居なくなる事は無い。

 「…苺鈴…やっぱりおれから離れろ…ここは危険だ。」

 「危険?何で?」

 「いいから早くっ!」

 そう叫んだ瞬間だった、音も立てず、何時の間にか目の前に三人の男が立っていた。

 

 「…李一族新総帥…李 小狼殿と御見受け致す…相違無いか…」

 その中でも特に大柄な男が、一歩前に歩を進め、小狼に問い出した。

 「人に名を尋ねる際には、先ず己から名乗るのが礼儀だろ、そんな事も知らないのか、黄一族。」

 「…失礼した…拙僧の名は烈火(レイホウ)、黄家武術師範の高弟に御座る。」

 小狼に問質した男が名乗ると、後ろの二人の男も揃って前に出る。

 「私は門弟の凛 船者(リン チェンジャ)、御見知り置きを…」

 「同じく凱 赤眼(カイ チヤン)、ヨロシクな、最も直にお別れだろうがよ。」

 二人が名乗り終えると、小狼は臆する事も無く、自分も一歩前に出た。

 「李 小狼だ、用件を言え。」

 「用件は一つ、我らと立ち合って頂きたい。」

 至って冷静な彼等に混じり、苺鈴一人が困惑した様子でキョロキョロとその間を見渡している。

 「ちょっと待ってよ小狼!総帥って何の事!?叔母さまの事じゃないの!?」

 「詳しい説明は後でする、今は離れろ…」

 そう小狼が呟いた直後、三人の中から一人、赤眼が突如飛び出した。

 「後がありゃいいがなぁっ!」

 だが、既に戦闘の構えを準備していた小狼は、それを難無く避ける。

 「赤眼っ!お前がやれとはまだ言ってないぞっ!」

 その後ろから船者の声が聞こえたが、赤眼はさも下らなさそうに笑い飛ばす。

 「いつも人を下っ端扱いすっからだよ、下っ端らしく一番にやらせて貰うっ!」

 構えた小狼と赤眼の二人が対峙する、その緊張の高振りと共に距離も縮む。

 (…この構え…翻子拳か…)

 翻子拳、長拳を得意とする攻撃的な拳法。

 小狼は構えを見ただけで瞬時に相手の流派を判断した。

 「いざっ!」

 その叫びと共に、赤眼は先手を打ち、小狼に突進する。

 その攻撃を、小狼は相手の体を軸に、回り込みながら手刀を放った。

 化剄(受け流し)を得意とする中国拳法の一つ、八卦掌。

 「っかぁっ!俺これ苦手っ!」

 赤眼の拳が次々に空を切る、どうやら化剄が得意な相手は苦手らしい。

 「馬鹿者が…小柄な少年が、力技より受け流す事を得意とする事くらい、誰でも予測出来るだろう…」

 「判ってるよっ!ちょっと待ってろっ!」

 もう一度攻め込むが、一向に命中する気配は無い。

 だが、突如放った蹴りが、ギリギリで小狼の額を掠めていった。

 「うわっ!?」

 次々に飛ぶ赤眼の変則的な蹴りに、先程まで余裕だった筈の小狼が、嘘の様に押されていく。

 「何だっ!?こんな拳法知らないっ!」

 刈り取る様に飛来する蹴り、アッパー気味に飛んで来るソバット、全てが小狼には初体験だった。

 「無理もねぇっ!コイツァ中国拳法じゃねぇからよっ!」

 インドに古来より伝わる伝統的武術、カラリパヤット。

 その変化に富んだ蹴りの連続に、小狼は反応し切れない。

 「小狼っ!」

 見兼ねた苺鈴が、苦戦する小狼の手助けに入ろうとする、が。

 彼女の行動に気付いた烈火が、一瞬でその背後に回り込み、片手で両腕を拘束した。

 「痛っ!ちょっとっ!離しなさいよっ!」

 苺鈴は暴れ回るが、その手はピクリとも動かない。

 「手出し無用、大人しくしていれば汝に危害は加え申さん。」

 しかし、その光景を目にした小狼は、一目散に苺鈴に向かって走り出した。

 「貴様っ!おれ以外の人間に手を出すなっ!」

 「クォラァッ!テメェの相手は俺だろっ!」

 「邪魔するなぁっ!」

 その後を追い飛び掛る赤眼だが、小狼は即座に振り向き、一枚の呪符を構える。

 「火神招来っ!」

 詠唱と共に、凄まじい火炎が呪符から赤眼に向かい発射された。

 「なっ!?ちょっ!?どえええぇぇぇっ!」

 跳躍した為、赤眼は方向転換が効かず、一直線にその炎の中へと突っ込む。

 「破っ!」「ごはぁっ!」

 だが寸手の所で、今まで静観していた船者の蹴りが、赤眼を炎の射程外まで吹き飛ばした。

 それでも、炎は今度は船者に向かい、襲い掛かる。

 「散魔っ!」

 船者は冷静に手に魔力を込め、その炎を四方へと散らした。

 「愚か者が…魔力も持たぬ癖に、李の総帥が魔力の使い手だという事を忘れたかっ!」

 「…悪ぃ…」

 バツの悪そうな顔をする赤眼を余所に、船者は小狼と対峙する。

 「選手交代だ…」

 「ちょっと!二人掛りなんて卑怯よっ!」

 苺鈴の叫びにも、全員は全く反応せず、再び緊張が高まる。

 「少女よ、これは親善試合ではない、真剣勝負だ…卑怯などという言葉は存在せぬ…」

 「…その割には、三人同時に襲い掛かったり、抵抗したらわたしを殺すとか言ったりしないわね。」

 「老師の教えだ、どんなに多勢であろうとも立合いは常に一対一、そして弱者には手を上げん。」

 その言葉を聞いた直後、カチンと苺鈴の頭に血が昇る。

 「誰が…」

 苺鈴は体を反らし、柔軟性を生かした蹴りを、背後の烈火に向かい放った。

 「誰が弱者よっ!」

 確かな打撃の感触が足に響く、だが、烈火は何事も無かったかの様な顔をしながら、その蹴りを受け止めていた。

 「…ほう…うぬも武士(もののふ)なる者か…さすれば遠慮は無用…」

 烈火は突然苺鈴を放し、その正面に構えながら立ち憚る。

 「拙僧が御相手仕ろう!そなたの覚悟、御披露されませい!」

 「やってやろうじゃないの…」

 苺鈴も構えを取る、中国山西省より伝えられし代表的な拳法、形意拳。

 「まだわたしは名乗ってなかったわね…わたしは李 苺鈴!李一族武術総師範、李 生雲(リー シュンユン)の娘よっ!甘く見ないでっ!」

 その名乗りを聞くと、烈火の無表情な顔が困惑気味に変る。

 「何?…うぬも李一族だったのか…欠片も魔力を感じぬ故、判らなかった…」

 「悪かったわねぇっ!」

 さらに怒りを増した苺鈴の飛び蹴りが、不気味に棒立ちのまま構える烈火を襲う。

 しかし、顔面にヒットしたかに見えたその蹴りは、まるで擦り抜けるかの様に空を切った。

 「へっ!?なによ今のっ!?」

 蹴りを放った本人である苺鈴と、端で見ていた小狼には、何が起こったのか理解出来ない。

 いや赤眼と船者も、見た事はあるがその正体までは解っていなかった。

 「出たぜ…まだ老師しか破った者がいない…師兄最強の歩法…」

 それからも、何度も苺鈴は攻撃を加えたが、一撃すら当らない。

 「何なのよ…まるで…空気を相手にしてるみたい…」

 「構えあって構え無し…姿在りて実体無し…色即是空、空即是色こそ拙僧の極意…」

 すると今度は、打って変って烈火が攻勢に転じる。

 「この技を見切れる者など!老師以外には存在せぬっ!」

 一定の間合いに入ると、その大木の様な足による前掃腿(足払い)が苺鈴に放たれた。

 「きゃあぁっ!」

 それを食らった苺鈴の体は、大きく一回転した後に、地面へと倒れ込む。

 烈火はその隙を見逃さず、即座に手刀を頚椎に向かい振り下ろした。

 「御首(みしるし)!頂戴っ!」

 

 「風華っ!」

 闘いに見惚れていた船者の隙を突き、小狼は呪符を構える。

 だが、狙いは船者でも烈火でもない、苺鈴だった。

 「ぬうっ!?」

 烈火の一撃が首を捉えるその間一髪、苺鈴の体は風華によって高く飛び上がった。

 その体を、小狼は急いで落下する前に受け止める。

 「苺鈴…立てるか?」

 「だめ…さっきので…足が…」

 痛々しく腫れた苺鈴の足を見た小狼は、仕方なく彼女を背に担ぐ。

 「このままじゃ不利だっ!一端逃げるぞっ!」

 小狼は三人に背を向け、一目散に路地へと走る。

 「あコラッ!待ちやがれっ!」

 「追うなっ!赤眼っ!」

 予想もしてない烈火の叫びに驚き、足が縺れた赤眼は頭からコケた。

 「何でッスかぁっ!?逃げちまいますよっ!」

 「去る者は追わず…それが負傷した者を連れてというなら尚の事…」

 「あいつブッ殺す為に三日もここでチャンスを待ってたんッスよっ!それなのに逃がすんッスかっ!?」

 「愚か者っ!」

 感情を剥き出しにした烈火の叫びが木霊する。

 その声に押え付けられたかの様に、途端に赤眼も大人しくなってしまった。

 「仁侠無き者に美学無し!美学無き者、武道家にあらず!老師の教えを忘れたかっ!」

 「…でもよぅ…俺は…」

 解っている、そう言いたげな顔をした赤眼は、俯きながら小さく呟く。

 「それでも…破門になっても構わねぇ…老師に頭領になって欲しかったんッスよ…」

 すると赤眼を宥める様に、船者が横から肩を軽く叩く。

 「老師を含む本家の連中、今回の日本行きの理由は引退する黄家総帥の後継者を決める為、その間老師の弟子である私達が手柄を挙げれば、それだけ老師が評価されるかも知れない、その気持ちは解る。」

 同情を感じながら赤眼は、声を震わせながら話を続けた。

 「老師はよ…俺と同じ、魔力なんざ欠片も持ってねぇ…だからいつも落ち毀れなんて呼ばれてよぉ…」

 烈火ももう怒鳴る事はしない、普段通り無表情で聞いている。

 「俺は老師が魔力も無ぇのに強ぇから弟子になったんじゃねぇ…老師が本当の漢(おとこ)だからなったんッスよっ!」

 話を続けるに連れ、その目に涙が零れ落ちる。

 「老師みてぇな漢に一族を引っ張って貰いてぇんッス!あの人の為なら死んだって構わねぇっ!俺は老師が好きなんッスよっ!」

 

 「拙僧も船者も…その気持ちに違いは無い…」

 急に穏かな表情になった烈火は、静かに涙を流す赤眼に語り掛ける。

 「されど…お前が教えを破ったなら、老師はお前を罰せねばならん…あの方にとって、それは辛い事だろう…」

 涙を拭く赤眼の顔は、何処か申し訳無さそうにも見える。

 「日を改めよう、今日はあの娘が居たから逃げるしかなかったのだろう、一人なら最後まで、李一族総帥として、決して背は向けぬ筈だ。」

 

 

 日本、友枝町。

 (何があったんだろ…エリオル君…)

 友枝小学校の教室内、桜は授業中も上の空で考え事をしていた。

 (それに…知らなかった…エリオル君と…観月先生…)

 「さくらちゃん、指されてますわ。」

 「ほっ!ほえっ!?」

 隣の知世に突然言われ、慌てて桜は教科書を持って立ち上がる。

 「えっとっ!?知世ちゃん、何ページ?」

 「…あの…国語はもう終ってますわ…」

 「…ほえ?」

 途端に起こる爆笑の中、桜は赤くなりながら座り込んでしまった。

 

 「どうしました?このところずっと元気がありませんご様子ですけど…」

 「うん…ちょっとね…」

 放課後、桜と知世は供に帰る為に一緒に歩いていた。

 「…ねぇ…知世ちゃん、観月先生の恋人って知ってる?」

 「知ってるも何も、柊沢君の事ですわ。」

 その言葉を聞いた桜は、ヘッドスライディングでズッコケる。

 「知ってたのっ!?」

 「あら?ご存知ありませんでした?」

 「わたし…三日前に観月先生からの電話でようやく知ったのに…」

 「観月先生から!?お元気でしたか!?」

 「…それが…」

 思い出すと、何故か胸が締め付けられる。

 泣いている歌帆など、姿は見ていないにしても、初めて見た故に。

 「この前の日曜日…エリオル君…観月先生に言ったみたいなの…」

 「…何てです?」

 話していいかそれまで迷っていたが、一人でこの事を抱え込むには、桜は幼かった。

 楽になりたい気持ちが先行し、最も信頼出来る人間に、事実を共有して欲しかった。

 

 「別れよう…って…」

 

 「…そんな…」

 信じられないといった顔をしながら、知世は桜を見詰める。

 「あんなに…優しい目で観月先生を見詰めてらしたのに…どうして…」

 「解らないの…でも…何か引っ掛かって…」

 「引っ掛かる?…何がですか?」

 電話の内容はそれだけではなかった、その前に、気掛りな事を歌帆は桜に伝えていた。

 「エリオル君…あの日…血だらけで帰って来たんだって…」

 詳しい事は聞いていない、最も、聞ける様な状況ではなかったが。

 「それで、柊沢君にご連絡は?」

 「ううん…してない…」

 桜は何度かエリオルに事の真相を聞こうとした、だが、それは出来なかった。

 エリオルは姿こそ子供だが、実年齢はかなりの歳、大人の事情に口を挟む事は桜は怖く、出来ないでいた。

 「でもきっと、柊沢君にも何か考えがあっての事だと思いますわ…」

 「…うん…きっとそう…」

 

 校門の前、桜はそこに到達すると、何やら周りを見渡している。

 「あれ?…銀さん、今日はいない…」

 「そういえばさくらちゃん、最近の登下校はずっと白金さんと一緒ですね。」

 「うん、お家が近くだから。」

 (…本当にそれだけでしょうか…)

 「何か言った?」「いえ別に…」

 

 一方、銀は。

 「白金さん、三組の花壇の整理お願いします。」

 「あいよっ!」

 「白金さん、そこの書類取って頂けません?」

 「ほいなっ!」

 「白金君、美術室の彫刻の移動、手伝ってくれますか?」

 「うっすっ!」

 「白金さん、お茶。」

 「自分でやれぇっ!」

 寺田に手渡された湯呑を、ハッと気付いた様に銀は投げ返した。

 「痛っ!何するんですかっ!?」

 「俺の体は一つッスよっ!何怒涛の勢いでコキ使ってんですかいっ!」

 心の叫びを爆発させる銀に、常に笑顔を絶やさない美術教師、山本が横から話し掛ける。

 「いや白金君、体力は余ってそうなので、つい頼んでしまうのですよ。」

 「…だからってねぇ…頼み過ぎッスよ…」

 本来なら、点灯しなくなった蛍光灯の交換に来ただけの筈なのだが、何時の間にか全ての教員の雑用係と化している。

 「まぁ確かに、お茶酌みまでは頼み過ぎですよ、寺田先生。」

 「すみません、余りに便利なので、つい…」

 「ついで使うなっ!ついでっ!そんなんだから独身なんッスよっ!」

 その言葉を聞いた瞬間、寺田の眉が釣り上がる。

 「独身は関係無いでしょうっ!それに好きで独りでいるんですっ!出来ない訳じゃなくっ!」

 ムキになる寺田に対し、銀は何故か満面の笑みを浮かべる。

 そして、寺田に近付き、小声で語り掛けた。

 「本当にしないだけッスかぁ?…出来ないんじゃなく?」

 「…何ですか…その笑みは…」

 銀は尚も笑顔のまま、半ば悪代官の様な感じでさらに小声になる。

 「寺田先生…俺は日中、至る所をブラついているんで…注意して下さいよ…」

 それを聞いた寺田の顔が、一瞬で青褪める。

 「…まさか…白金さん…見て…」

 「ほんの一瞬ですがねぇ…しっかりと…」

 本当は、ほぼ一部始終だが。

 そんな事を話していると、また背後から山本の声が聞こえてきた。

 「白金さん、そろそろ頼んだ事、お願いします。」

 「あはい、美術室ッスね。」

 また普段通りの顔に戻った銀は、うろたえる寺田を尻目に山本と共に職員室を後にした。

 

 「白金君、寺田先生の事、あまり苛めないで下さいね。」

 「はい?」

 「立場上色々とあるんですよ、若い子と交際するのは。」

 (おいおいヨッちゃん…バレてるよ…)

 

 校門前。

 周りを見渡していた桜は、学校の廊下に銀の姿を発見した。

 「ほえ?銀さん、まだお仕事中なんだ。」

 「少しお待ちになりますか?」

 「ううん、帰る時に校門に居なかったら、先に帰ってろって言われてるから、今日はお掃除当番だし。」

 そう言った桜は、今度は廊下を歩く銀に向かい、大きく手を振る。

 「銀さぁーん!先に帰ってますねー!」

 桜に気付いた銀も、歩きながら片手を軽く振り返した。

 それを見ていた山本は、少し笑いながら銀に話し掛ける。

 「フフ…白金君も、人の事は言えないではないですか。」

 「なっ!?俺はまだそんなんじゃありませんよっ!」

 「まだですか、まだね…」

 

 その頃、見たい番組がある為に、奈緒子は小走りに家路を急いでいた。

 だが、とあるマンションの前を通り過ぎようとした時に、不意にその足は止まる。

 「…あれ?」

 見覚えのあるピンクの髪、それがマンションの階段をゆっくりと上がって行く姿が目に止まった。

 「もしかして、儀龍さんっ!?」

 「うにょ?この声?」

 奈緒子の声に反応した儀龍が下を確認すると、道路の彼女と目が合う。

 「およっ!奈緒子ちゃんじゃない、偶然だね。」

 「ここだったんですか、儀龍さんのお住い。」

 儀龍は再度階段を降り、奈緒子もそこまで走って行った。

 「…あや?奈緒子ちゃん、髪型戻しちゃったの?」

 「これですか、髪を洗ったら戻っちゃって、自分じゃ上手に出来なくて…」

 「う〜ん…それはいかんにゃぁ…」

 少し考えた後、儀龍は何やら頭に豆電球が点灯し、途端に笑顔になる。

 「そうだ奈緒子ちゃん、ちょっと今から家に来ない?」

 「へっ!?でも、悪いです…」

 正直、奈緒子も儀龍の部屋には興味があった、だが積極性に欠ける彼女は少々遠慮気味だった。

 「ねーねー、本音は一人じゃ寂しいの〜…日本にゃお友達もいないし…」

 「それじゃ…ちょっとだけ。」

 「ちょっとと言わず朝まででもいいよ、こっちこっち!」

 さらに元気の増した儀龍は、半ば強引に奈緒子を己の部屋へと案内する。

 「ここだよ、私のお部屋。」

 三階の一室、ドアを開けた儀龍は、奈緒子をエスコートする様に部屋へと入れる。

 「はい、お邪魔します。」

 

 儀龍の部屋に二人が消えた直後、隣の部屋のドアが開いた。

 「さて…そろそろ時間だな…」

 部屋から出て来た者はクリス、ツインベルが定休日の為、今日は銀と待ち合わせをしていた。

 「どうせそんなに遠くないし…歩いて行くかな。」

 

 帰宅途中の桜と知世は、楽しげにお喋りをしながら公園前を通り過ぎる。

 「それでね、銀さんのお家の冷蔵庫って、お酒とお摘みしか入ってないんだって。」

 「まぁ、食事はどうなさっているのでしょう?」

 「全部カップ麺…この前銀さんのお家で見たの…」

 そんなこんなと話していると、突然桜は立ち止まってしまう。

 「…ほえ?この感じ…前にも…」

 「どうなさいました?」

 「うん…公園の中から…力を感じるの…」

 以前、それも最近感じた、あの学校での感覚に似ている。

 「あの時の人、近くにいるっ!」

 もしもの時の為、常に鞄に仕舞って置いたカードを取り出し、桜はゆっくりと公園内へと侵入して行った。

 そこには。

 「はぁ〜…刀虎は修行ばっかだし…あいつぁ部屋に入れてくんねぇし…他の奴等は遊んでもつまんねぇし…」

 ベンチに腰掛け、項垂れる毒龍の姿があった。

 「ヒマだぁ〜…」

 別に桜を待ち伏せしていた訳ではない、本気で退屈らしい。

 それを見た桜は、危険が無い事を確認すると、忍び足でその場から離れようとした。

 だが、その直後。

 「…何をしている?」

 「ほっ!?ほえぇぇっ!?」

 音も無く、桜の背後には何時の間にか学校で見たもう一人の男、刀虎が立っていた。

 

 (どうしよう…知世ちゃんもいるし…何とかして逃げなきゃ…)

 しかし刀虎は、完全に桜達を無視し、そのままスタスタと毒龍の下へと歩いて行ってしまった。

 「あ…あれ?」

 拍子抜けしてしまった桜は、ただ立ち尽くしたまま目で刀虎を追う。

 「ったく…携帯くらい持っておけ、集合だ。」

 「あぁ、悪い悪い、ハイテクはど〜も苦手でよ…って…」

 刀虎の言葉に返事をした直後、毒龍と桜の目が合う。

 「クロウの後釜じゃねぇかぁっ!ここで会ったが百年目!今度こそ!」

 「まぁ待て毒龍。」

 桜に飛び掛ろうとした毒竜を、その辮髪を引っ張り、刀虎は止める。

 「ぐへっ!」

 勢い余った毒龍は、そのまま仰向けに倒れてしまった。

 「何すんだ刀虎っ!千載一遇のチャンスじゃねぇかっ!」

 「まだ奴を殺せとの命令は出てない、そう急ぐな。」

 「待ち切れる訳ねぇだろっ!折角だ、俺はやると言ったらやる…ぜ?」

 再度刀虎に視線を送ると、その顔は明かに怒っている様に見える。

 「…聞こえなかったのか毒龍…集合だ…行くぞ…」

 「へ…へ〜い…」

 さっきまでの勢いは何処へやら、一瞬で借りた猫の様に大人しくなってしまった。

 「でもよぅ…こいつがいるって事は…近くにあの白金って奴もいるんじゃねぇか?」

 「っ!?」

 その一言で、刀虎も止まった。

 「白金…銀…奴が…」

 目に尋常ではない憎悪の炎を燃やし、桜の周辺を注意深く観察する。

 「えっと…銀さんはまだ学校…」

 桜の言葉を聞くと、今度はガッカリとした様子で項垂れてしまう。

 「なぁ刀虎…そんな恋人に逃げられた様な顔すんなよ…」

 直後、毒龍に蹴りが入る。

 「ごへぇっ!」

 「誰が恋人だっ!今度言ってみろ…殴るぞ…」

 「…もう既に蹴りが入ってんだけど…」

 

 「…知世ちゃん…今の内に…」

 桜は、二人の漫才の様なやり取りの隙を突き、知世とその場をこっそりと抜け出す。

 「さくらちゃん、先程の方々が、以前に話された…」

 「うん、黄一族って人達…」

 公園を抜ける為に走りながら、二人は話していた。

 「…何だか怖い…じゃれ合ってるみたいだけど…ハッキリ言ってた…」

 桜の顔が恐怖に歪む、聞き慣れない言葉、言われる事など考えられない言葉。

 「殺す…って…」

 

 

 「ん〜っとね、ここんトコをこう、ブラシでシュシュっとね…」

 「はい、こう…逆撫でる感じで?」

 「そうそうそう、ちょっとづつ柔かに。」

 マンションの儀龍の部屋、そこで奈緒子と二人で鏡の前に座り、髪のセットを教えていた。

 「はぁ〜…基が可愛いから、弄ると食べちゃいたいくらい可愛くなるにゃぁ…」

 ウットリした目で奈緒子を見詰めながら、だんだんと手を体に絡めていく。

 「決めたっ!食べちゃうっ!」

 「きゃあっ!」

 突然叫んだ儀龍は、奈緒子をそのまま近くのベッドへと倒し、上から覆い被さった。

 「あのっ!?儀龍さんっ!?」

 「ううぅぅぅっ!奈緒子ちゃんが悪いんだぞぉ…こんな可愛いのに無防備にしてるからっ!」

 「儀龍さんっ!目が怖いですっ!」

 興奮し、血走った目をした儀龍は、有無を言わさず奈緒子の唇を奪う為、ゆっくりと顔を近づける。

 「にゅふふふ…小さな口…」

 「待って…あのっ!うんっ!んぐ…」

 何かを言い掛けた奈緒子だったが、その口は儀龍の唇により塞がれた。

 そのまま数秒、奈緒子にとっては何時間にも感じる時間、重ね合った唇を離さず、儀龍はその感触を楽しみ続ける。

 「ん…はぁ…」

 唇を離した頃には、奈緒子の体の力も抜け、すっかり大人しくなっていた。

 「奈緒子ちゃん、キスは初めて?」

 「へ?…あ…はい…」

 まだちょっと惚けたまま、それでも恥かしがりながら、奈緒子は小さく頷く。

 「フフフ…わたしが貰っちゃった…奈緒子ちゃんのファーストキス…」

 

 その頃、逃げる桜と知世は、公園を出て道路へと到着し、そのまま家へと走ろうとしていた。

 「あのお二人、まだ喧嘩してますわ。」

 「そんな事より早くっ!逃げなきゃ危険だよっ!」

 焦りながら走る桜だが、その前に一人の人影が現れた。

 巨大な、三メートルにまで到達しようかという肉の塊。

 「…ほえ?…なに?」

 その巨大な塊の男は、薄らと笑みを浮かべたまま、桜達を見下ろしていた。

 「…グ…グフフフ…可愛いアルネェ…お人形みたいアルヨ…」

 佇まいからして明らかに危険と判断出来る、だが、先の二人の様な感じとは違う。

 何か、別の意味で危険が多い。

 「あの…どちら様でしょう…」

 一瞬呆気に取られた知世だったが、気を取り直してそう投げ掛けた。

 その時だった、桜達の目の前に現れた一人の男に気付いた毒龍が、驚いた様にその下へと走って来る。

 「お前、愚龍(ユィロン)!?何でこんなトコにいんだよっ!?」

 (…?…愚龍?…まさか…俺を…)

 毒龍の後に続き、刀虎もその場に現れる。

 「そんな…仲間っ!?」

 「どうしましょう…囲まれてしまったみたいですわ…」

 不安な顔をしていると、突然刀虎が二人の前にゆっくりと近付いて来た。

 「安心しろ、今は貴様等に用は無い…あの男は別だがな…」

 「そうそう、まだ命令は出てないアルヨ。」

 その言葉を聞いた桜は、まだ怯えた顔をしたまま、一歩一歩その場から逃れようとした。

 「ちょっと待てコラッ!俺は逃がすだなんて言ってねぇぞっ!」

 「毒龍っ!」

 いきり立って後を追おうとした毒龍だったが、その刀虎の一喝で再び大人しくなる。

 しかし、愚龍の横を通り過ぎようとした時、当の愚龍に再び笑みが毀れた。

 「確かにカード保持者への手出しは今は禁止ネ、でも…隣の子は違うアルヨ…」

 

 「きゃあぁぁっ!」

 桜の後に続き、愚龍の横を通り過ぎようとした知世を、愚龍の巨大な腕が捕獲した。

 「知世ちゃんっ!何するのっ!?」

 一瞬の内に緊張が最高点まで達する、友達が危険に晒されてまで黙っていられない。

 だが、黄一族にも、黙っていられない者が一人だけ存在していた。

 「愚龍!その手を離せ…」

 明かな怒りの表情をした刀虎が、愚龍に向かい言い放った。

 「何でお前の言う事なんか聞かなきゃいけないアルカ?それにワタシ命令違反はしてないアルヨ?」

 「仁侠無き者に美学無し…美学無き者、武道家にあらず…俺の銘を知らぬ訳ではないだろう…」

 皮肉に対して食い下がる刀虎を、愚龍はそれでも笑い飛ばす。

 「馬っ鹿アルネッ!本当に馬っ鹿!そんなだから落ち毀れ言われるノヨ!」

 「…因果応報…卑劣な者に決して栄光など訪れぬ事が…解らんのか貴様は…」

 信念の違い、険悪になる刀虎と愚龍の間の空気が揺れる。

 「レリーズッ(封印解除)!」

 二人の言い争いの隙を突き、桜は杖の封印を解いていた。

 さらに間髪入れず、知世の救出の為に一枚のカードを取り出す。

 「ウォーティッ!(水)」

 カードから放たれる水は、一直線に愚龍を狙った。

 しかし、命中の直前、愚龍は捕らえた知世をウォーティの前に突き出す。

 「きゃああぁぁっ!」

 「っ!?ウォーティッ!止まってっ!」

 桜の命令により、ウォーティは知世の鼻先数センチの位置で止まった。

 「危ないアルネ、お友達を殺す気アルカ?」

 笑いながら言い放ち、さらに知世を捕らえている腕を、強く握り込む。

 「は…かはっ…」

 その力で知世の体が締め付けられ、苦しそうな声が桜の耳に響いた。

 「大人しくしないと…本当に物言わないお人形さんになっちゃうアルヨ。」

 「やめてっ!知世ちゃんっ!」

 

 「…あの…儀龍さん…」

 「んにゅ?なぁに?」

 全裸にした奈緒子の隣に寝転び、その体を楽しそうに弄る儀龍は、声に反応しその手を止める。

 「…やっぱり…恥かしい…」

 誰にも見せた事など無い生れたままの姿を、同性であっても見せるには相当の勇気が要る。

 しかし儀龍は慣れた手つきで、まだ少女の奈緒子の体に、初めての快楽を与え続けていた。

 緊張の糸を一本一本解す様に、優しい手つきで。

 「大丈夫…奈緒子ちゃんはジッとしてるだけでいいの…」

 悪戯っぽい笑顔を見せる儀龍に、奈緒子も次第に落ち付いてくる。

 だが一方で、体を走る未経験の感覚に、体が熱くもなってきていた。

 「…んっ!…はぁ…や…」

 「感じてるんだね…わたしの手で…可愛い…」

 儀龍はそのまま体に唇を這わせながら、下へ下へとゆっくりと移動する。

 まるで彼女の全身を味わうかの様に。

 「ふぁ…きゃっ!きゃんっ!」

 太腿から脹脛、さらには足の指まで、余す事無く儀龍の口と指は探り続けた。

 そして、まだ産毛程度しか生えてない、奈緒子の女の部分へと舌を這わせる。

 「やっ!…そこは…汚いですぅ…」

 「ふ〜ん…どこが?」

 そう言い返すと、一本の縦の線しかない奈緒子の秘部を、二本の指で小さく開く。

 「こんなに綺麗なのに…汚いなんて言っちゃダメ。」

 「儀龍さんっ!ふあっ!いっ!きゃんっ!」

 触られた事も無い部分を舐められる、初めての感覚に、奈緒子は体を大きく反らし、ただその身を任せていた。

 「エッチな子だにゃぁ…こんなに小さいのに、こんなに濡らして…」

 「だって…だって儀龍さんが…」

 そう言った直後、何故か儀龍の動きが止まる。

 「…?…あの…どうしたんですか?」

 奈緒子からは見えないが、目が血走っている。

 「…が…我慢出来ない…」

 「あの…儀龍さん…」

 すると儀龍は、着ていたシャツとショートパンツを脱ぎ捨て、再び奈緒子と同じ目線まで上がってきた。

 「奈緒子ちゃん…奈緒子ちゃんのヴァージン…ちょうだい…」

 「へっ!?…あのっ!何!」

 儀龍が体を上げた為、奈緒子からもハッキリと見えた。

 その股間に付いている、自分とは違う物。

 「…儀龍さん!?…男!?」

 「にゅふふふ…女だなんて一言も言ってないよ…」

 奈緒子の上に覆い被さり、彼女の秘部にその物を当てる。

 「生れ付きホルモンバランスに異常があってね…体はこんなんだけど…立派な男だよ。」

 唾液と愛液で濡れた秘部に、窮屈そうに、それでも強引に儀龍は押し込んでいった。

 「ひっ!…んぐっ…ぎぃっ!」

 苦しそうな奈緒子の口に何度も唇を重ね、落ち付かせながらゆっくりと入れようとする。

 「奈緒子ちゃん…我慢出来ないの…入れちゃうねっ!」

 「やっ!待ってっ!やぁっ!」

 奈緒子は苦しさに耐えながら受け入れていたが、儀龍は我慢の限界から、一気に自分の物の残りを押し込んだ。

 瞬間、小さな音だが、『ブチッ』という音が微かに聞こえた。

 「きゃあああぁぁぁぁっ!痛いっ!痛いぃっ!」

 「にゃうぅっ!キッツ〜いっ!」

 儀龍の物は決して大きくはないが、奈緒子の小さな入口には充分大きい。

 「痛い?でも我慢してね…わたしは我慢出来ないけど…」

 無責任な事を言い放ち、儀龍は発情した犬の様に奈緒子を貫き続けた。

 「きゃぁっ!はぐっ!いぎぃっ!」

 多少の抵抗をしながら、身を引き裂かれそうな痛みに耐える。

 (…ちょっと…可哀想かな…)

 そう思った儀龍は、自分と繋がっている部分に手を伸ばす。

 そして、何やらブツブツと小さく呟くと、不思議と奈緒子の痛みが消えていった。

 「あ…何?…んっ!ふあぁっ!」

 痛みが消えると、その変りに言葉では言い表せない、初めての体の中を掻き回される快感がその身を走る。

 「どう?…気持ちいいでしょ?」

 だが既に儀龍の言葉に反応するだけの思考は失われ、ただ快楽に身を委ねていた。

 

 「イッダアアァァァッ!」

 優勢に立っていた愚龍から、突然悲鳴が沸き起こる。

 さらにその腕は次第に開き、拘束されていた知世は一目散に桜の側へと逃げていった。

 「何ヨ!?腕が動かないアルッ!」

 「…何?…何が起ったの?」

 桜も何もしていない、余りに一瞬の出来事。

 よく見てみると、愚龍の腕には一本の長い針が刺さっていた。

 「上腕筋の自律神経を刺激させて頂きました…貴方の意思に関係無く、その腕は開き続けます…」

 桜の背後から何者かの声が聞こえる、二人は一度聞いた事のある声が。

 「アヒ…ヒイィィッ!」

 慌てて愚龍はその針を抜いた、が。

 「イギャアアアァァァァッ!」

 抜いた瞬間、切断された様な激痛がその腕を襲った。

 「言い忘れてましたが、神経に刺さってますので、正確に抜かないと神経を切断してしまいますよ。」

 愚龍の悲鳴に対して欠片の動揺も見せず、桜の背後の男は冷たく言い放つ。

 「最も…可憐な少女を傷付ける腕など…死んでくれて結構ですがね…」

 「だっ!?誰だテメェッ!?」

 毒龍の声に続き、桜と知世も背後の男の顔を確認する。

 そこにいた者は、二人も見知った顔。

 「クリスさんっ!?」

 「婦女子を傷付ける者は、生理的に嫌悪する性質(たち)でしてね…」

 新たな強敵の出現に、毒龍は思わずたじろぐが、刀虎は冷静に相手の能力を分析していた。

 「千本か…そいつの使い手がこの世に存在していたとは…」

 「何でしたら、貴方も体験してみますか?」

 「いや…結構だ…」

 刀虎の答えを無視し、クリスは照準を定め、針を構える。

 「まあまあ…そう言わずにっ!」

 その一言と共に刀虎に向かい、数本の針を投げる。

 「ォアタァッ!」

 響き渡る咆哮と一閃、クリスの針はその裏拳で全弾叩き落された。

 「…ほう…銃弾より速い僕の千本を…弾き返しますか…」

 「軌道は一直線、速度も先の愚龍への一本で既に見た…後はタイミング次第で容易に避けられる…」

 互いに冷静、さらに両者全く目を反らさず、周囲の空気が張り詰める。

 だが、刀虎は先に視線を外し、交戦の意思を拒否した。

 「まぁ…用事があるのは貴様ではない…奴との決着が着いたら相手をしよう。」

 「…逃げるのですか?…挑まれた戦いから…」

 「奴とは万全の状態で闘いたいのでな…そうでなくては勝てないだろう…それまで預ける…」

 刀虎の心中を察したクリスも、構えた針を降ろしてしまった。

 「そうですか、僕も争いは極力避けたいですし…いいでしょう…」

 

 「ひんっ!あっ!…ん…あぁっ!」

 「だめぇっ!奈緒子ちゃん気持ち良過ぎぃっ!」

 小さな奈緒子の締め付けに、儀龍の快楽に対する高まりは頂点に達しようとしていた。

 奈緒子も不思議と苦痛を感じず、初めてにも関らず体が痺れる様な感覚に包まれる。

 「奈緒子ちゃん…中に出すからねっ!全部受け止めてっ!」

 「へっ?…中って…あんっ!」

 言ってる事の意味が解らず、それでも大人しく奈緒子は儀龍を受け入れる。

 「あっ!ふあぁっ!」

 儀龍の責めに、つま先をピンと伸ばし、奈緒子の体に熱い感覚が走った。

 「んっ!きっ!きゃううぅぅっ!」

 「んあぁっ!出ちゃうっ!いっぱい出ちゃうぅっ!」

 体を反らし、根元まで突き入れた儀龍の物の先から、かなり溜まっていたのだろう、夥しい量の精液が膣内に吐き出された。

 「やだぁ…止まらない…どんどん出ちゃうぅ…」

 挿入した状態でも、脇から流れ出る程、躊躇い無く中へと射精を続ける。

 「あっ!お腹が…熱い…」

 今まで感じた事など無い、体温の交わり。

 全てを出し切った儀龍は、半ば柔らかくなっても抜こうとせず、そのまま奈緒子を抱き締める。

 「…奈緒子ちゃんの中が凄く気持ちいいから…こんなに出ちゃった…」

 その言葉に、どう言い返していいのか解らず、奈緒子はただ赤くなるだけだった。

 そんな表情を見て、儀龍は優しい笑顔を奈緒子に向ける。

 「…可愛い…」

 「あ…ん…」

 何度も唇を重ね、余韻に浸る。

 触れ合う毎に、奈緒子の中で何かが芽生える。

 幸福感にも似た、新鮮な感情。

 

 

 (…フランシス…こっちだ…)

 「…?…誰だ…何故…僕の名を…」

 (ここだ…私だよ…)

 「…っ!?そんなっ!?まさかっ!?」

 周囲を見渡すクリスの視線の先に、見覚えのある、いや、よく知っている一人の男の姿が現れる。

 「…兄さん…何故…」

 

 「クリスさんっ!?」「どうなさいましたっ!?」

 桜と知世の声にも答えず、クリスは愚龍を見詰めたまま、呆然としていた。

 「…兄さん…」

 そう呟きながら、ゆっくりと愚龍に向かい歩いて行く。

 その先にいる愚龍は、懐から巨大な中華包丁を構え、待ち構えている。

 「クリスさんっ!?どうしたのっ!?」

 いくら声を掛けても、一向に反応する気配が無い。

 「ムホホホホ!無駄アルネ!そいつはワタシの術中に完全にハマッたアルヨ!」

 人の心を操作し、相手の心理を玩ぶ、催眠術にも似た愚龍の魔力。

 クリスは今、心の隅に残っている、優しかった頃の兄の姿を映し出され、何の警戒も無く進んでいた。

 「クリスさんっ!行っちゃ駄目っ!」

 「お願いですっ!目を覚まして下さいっ!」

 二人は必死に止めるが、クリスが気付く様子は無い。

 「おい刀虎…あいつ…このままじゃ死ぬぜ?」

 「…心配無い…言っただろう…因果応報…」

 勝ち誇る愚龍の頭上に、一人の人影が現れる。

 「卑劣な者に決して栄光など訪れぬ…特に奴にはな…」

 その人影は愚龍を飛び越え、正面に迫っていたクリスに飛び蹴りを入れた。

 「ラリッてねぇで起きろアホォッ!」

 「ぐはぁっ!」

 蹴り飛ばされたクリスは地面に倒れ込み、その直後に呆気に取られた顔でキョロキョロと辺りを見渡す。

 「珍しいな…君にツッコミを入れられるなんて…」

 「まぁな…いつもは逆だからな…」

 現れた者を睨みながら、刀虎は静かに、それでいて力強く呟く。

 「来たか…銀…」

 

 「銀さんっ!」「ナイスタイミングですわっ!」

 心強い味方の登場に喜ぶ二人を余所に、銀は既に一人の敵と激しく睨み合っていた。

 「…会いたかったぞ…銀…」

 殺意を剥き出しにした刀虎が、ゆっくりとその距離を縮める。

 「この前は…本当に悪い事をしたと思っている…先ずはそれを謝りたい…」

 「はぁ?」

 予想もしなかった言葉に、銀の眉が釣り上がる。

 「貴様を見縊り…全力を出さぬまま、勝負を悪戯に汚した…俺にとって猛省すべき事…」

 「んじゃ何だ?前回は本気じゃなくて、今度は本気ってか?」

 「…その通りだ…」

 二人の距離が縮まるに連れ、緊張も次第に高まる。

 だが、そんな二人の間に割って入る者がいた。

 「ちょっと待つネ…ワタシ邪魔されて凄く怒ってるヨ。」

 刀虎の前に立ち、愚龍が銀と対峙する。

 「ワタシが殺すアル…一度負けた奴は少し黙…」「邪魔だっ!」

 愚龍の言葉が終る前に、銀の蹴りが腹部に刺さった。

 「ベッヘエエエエェェェェッ!」

 瞬間、五百キロを越える愚龍の体が高く浮き、刀虎の後ろの毒龍の隣に落下する。

 「ったく…カバがゴチャゴチャうっせぇんだよ…」

 再び構え直した銀は、視線を刀虎から外さず、後ろの三人に話し掛ける。

 「…下がってろ…危ねぇぞ…」

 「う…うん…」

 刀虎も、背後の毒龍に釘を刺す。

 「毒龍…手を出すな…」

 (出したら死ぬって…)

 隣で延びている愚龍を見ながら、毒龍は心の中で呟いた。

 

 「貴様から受けた屈辱…今返す…」

 「ヘッ…倍になるだけだぜ…」

 二人が射程内に入った瞬間、空気の揺れが止まった。

 

 「…第二ラウンドだ…」

 

 

 


解説

 H!と思ったら即バトルッ!

 興奮を止める事などなぁ〜いっ!いつだって全力投球!

 

 って…変にいきり立っていますが…ちょっとお知らせが…

 今まで絵付きで投稿してましたが…技術…時間…その他モロモロの事情により…

 今回で諦めましたぁ〜っ!だぁ〜っはっはっはっはっ!

 無理だったんだよぉ…月一枚が限界のキャロに…毎回二、三枚描くだなんて…

 

 今回は…にゅうきゃらが多いっ!ババッと行くぜババッと!

 先ずは拳法家トリオ!烈火(声優:玄田 哲章)!凛 船者(声優:速水 翔)!凱 赤眼(声優:石田 彰)!

 一回きりキャラではないのであしからず…

 三人の説明は以上っ!(テキトーだなぁ…)

 んでもって新たな黄一族!黄 愚龍!(声優イメージ:飯塚 昭三)

 話の中でも説明がありました通り、彼の魔力は心を操る能力です。

 身長280cm、体重530kg、肉の塊…

 

 今回のタイトル「Mirror」はカードの事ではありません。

 Gacktさんの曲からパクッてます。

 

 気付いたんだけど、毎回声優のイメージ決めて書いてるんだけど、一話の時点じゃ考えてなかったから、銀の声優イメージは書いてなかったんだよね。

 ついでに、白金 銀の声優イメージは、だいたい予想してる人もいるかと思うけど「矢尾 一樹」さんです。

 

 それではっ!何かHシーンが毎回無理矢理入れてるみたいに見えるけど(実際そう?)次回Hがあるかどうかは不明ですっ!

 私にHな事はあまり期待されても困りますっ!

 


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