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さくらと桃矢の甘い生活 その01
料理長/文


 おことわり 今回はHシーンが一切ありません

 

 

 「雪兎・・・さん・・・うっ・・・うぅ・・・」

 さくらはベッドの上で涙を流す。小狼がいてくれたおかげで多少は楽になった気がする。

 でも、胸に空いた穴は大きすぎる。小狼ではそれを埋めるのには役不足だった。

 「・・・うっ・・・うっ・・・うぅ・・・」

 

 さくらの部屋の前でケルベロスがふわふわと浮いていた。

 「困ったなぁ〜どうやって声かければええんやろ」

 その時、階段を上がってくる足音が聞こえてくる。とっさにケルベロスは姿を隠す。

 桃矢だった。それに気付いたケルベロスがホッとしたように姿を現す。

 「なんや、にーちゃんかい。ビックリして損した。わいとユエのことは知っとるんやろ?」

 「あぁ」

 そっけない返事。

 「あぁ、って他に無いんかい!」

 桃矢の目が鋭くなる。

 「言って・・・いいのか?」

 「い・・・いえ・・・結構です・・・ほな!」

 ケルベロスはスーッとどこかへ飛んで行ってしまう。

 桃矢はドアをノックすると、応答も待たずに開ける。

 

 「さくら・・・」

 「うっ・・・うっ・・・お兄・・・ちゃん・・・」

 さくらが桃矢に抱きついてくる。

 「わたし・・・わたし・・・雪兎さんに・・・・・・うわーん・・・」

 桃矢はその頭を優しく撫でてやる。

 「でも、ゆきはさくらのこと嫌いだって言ったわけじゃないんだろ?」

 「うん・・・でも・・・でもぉ・・・うっ・・・うっ・・・やっぱり・・・やっぱり・・・好きだよぉ・・・」

 さくらの身体を抱きしめる。

 「歌帆のこと・・・本気だったんだ・・・自分ではそう思ってた・・・」

 「観月・・・先生・・・?」

 桃矢の突然の告白にさくらの涙が止まる。

 「あぁ・・・去年・・・歌帆が帰ってきたときに・・・やっぱり好きなんだ・・・そう思った・・・」

 さくらは黙って聞いている。

 「あいつが留学先に戻っていったとき・・・わかったよ・・・俺はもう過去なんだなって・・・でも・・・」

 「でも?」

 「思ったほどショックじゃ無かった・・・・・・何でだかわかるか・・・」

 「わかん・・・ない・・・」

 「ゆきに父さんに・・・それに・・・」

 桃矢の手がさくらの髪をぐしゃぐしゃにする。

 「手のかかる怪獣がいたからな・・・」

 「さくら、怪獣じゃないもん!」

 顔を上げたさくらを優しい瞳の桃矢が見下ろしていた。

 「元気・・・出たか・・・」

 「あ・・・うん・・・ありがとう・・・お兄ちゃん・・・・・・今日は小狼くんにも励まされちゃったし・・・みんなに迷惑かけてばっかりだね」

 それを聞いて、桃矢は急に不機嫌になる。

 「話はそれだけだ。じゃあな、怪獣」

 「さくら、怪獣じゃない!」

 桃矢が出て行ったドアにクッションを投げつける。

 跳ね返ってきたクッションを抱きしめてさくらは再び涙を流す。今度は嬉し涙だった。

 「ありがとう・・・お兄ちゃん・・・」

 

 

 暗闇の中の一本道を雪兎と小狼が歩いている。

 たいした速さで歩いているようには見えないのだが、どうやっても追いつくことができない。

 「雪兎さん! 小狼くん! 待ってぇ!」

 そう呼びかけると二人は立ち止まって振り返る。

 「さくらちゃん、早くおいでよ」

 「早く来いよ、さくら」

 立ち止まっているはずの二人の姿がどんどん遠ざかっていく。

 「待ってよぉ! わたしを置いていかないでぇ!」

 気がつくと、一本道を一人で走っていた。走り疲れて、いつしか歩き出してしまう。

 「雪兎さーん・・・小狼くーん・・・どこ行っちゃったのぉ・・・わたしを一人ぼっちにしないでぇ・・・うっ・・・ううっ・・・」

 泣きながら歩き続ける。立ち止まってしまうと、どちらに向かっていたのかわからなくなりそうな気がした。

 「うっ・・・うっ・・・返事してよぉ・・・雪兎さーん・・・小狼くーん・・・誰もいないのぉ・・・うっ・・・うっ・・・」

 その声は周囲の闇に吸い取られるように消えてしまう。

 とうとうしゃがみ込んで泣き出してしまった。

 「二人とも・・・どこぉ・・・一人はやだよぅ・・・うっ・・・ううっ・・・うっ・・・」

 道が消えている。周囲から冷気をともなった闇が染み込んでくるようだ。

 「寒いよぉ・・・」

 両肩を抱きしめてガタガタと震えだす。

 「このまま・・・消えちゃうのかなぁ・・・なんだか・・・疲れちゃった・・・眠いよぉ・・・」

 そのまま眠りに落ちようとしていたさくらの身体を一筋の光が照らす。

 「ん・・・あったかい・・・」

 目を開く。日の光のように温かいが決して眩しくはない光、それがさくらの全身を包み込む。

 さくらは立ち上がると、その光に向かって歩み出した。

 

 ハッと目が覚める。さくらの顔を桃矢が覗き込んでいた。

 「さくら、大丈夫か」

 「お・・・お兄ちゃん・・・」

 桃矢の手がさくらの手をしっかりと握りしめている。桃矢の頭の上ではケルベロスが心配そうに飛び回っていた。

 「どうした? 怖い夢でも見たのか?」

 その時になって、はじめて自分が涙を流してるのに気がついた。

 「お兄ちゃん・・・だったんだぁ」

 「なんだ」

 「お兄ちゃんは・・・お兄ちゃんはさくらと一緒にいてくれるよね・・・どこにも・・・いかないよね!」

 「あぁ」

 「わいも一緒や!」

 ケルベロスの主張はあっさりと聞き流される。

 「さあ、まだ朝まで時間がある。まだ寝てろ」

 「お兄ちゃん・・・」

 「ん?」

 「手・・・離さないでね・・・私が眠るまで離さないでね・・・」

 「わかったよ・・・」

 桃矢はさくらの手を強く握りなおす。

 「ありがとう・・・おに・・・い・・・ちゃ・・・ん・・・」

 ホッとしたのか、さくらはたちまち眠りに落ちる。

 

 目が覚めた。

 カーテンを通して朝日が差し込んでいる。

 「う・・・・・・ん?・・・ほ、ほえーっ!」

 「ん・・・あぁ・・・起きたのか・・・」

 のびをしようとしたさくらの手を桃矢が握っていた。

 「お兄ちゃん・・・ずーっと握っててくれたんだ・・・」

 「お前が離さないからな」

 そう言われて慌てて手を離す。

 「ご・・・ごめんなさい・・・」

 そんなさくらの頭を優しく撫でる。

 「もう・・・大丈夫だな」

 「うん!」

 桃矢は欠伸をしながら部屋から出て行った。

 「お兄ちゃん・・・」

 ずっと握りしめられていた手を頬に当てる。

 桃矢の温もり・・・夢で感じたのと同じ温かさが残っていた。

 

 

 「おはよ! 知世ちゃん! 小狼くん!」

 「おはようございます、さくらちゃん」

 「お・・・おはよう」

 いつもと変わらぬ元気な様子でさくらが教室に入ってきた。

 小狼はそれを見て戸惑いを覚える。

 昨日はあれだけ落ち込んでいたのに、自分の言葉が励ましになったのか、そう思うと少し嬉しかった。

 「何かいいことあったんですの」

 「うん!」

 元気に答えるさくら。小狼に向き直るとその手を握る。

 「昨日はほんとにありがとう。わたし、もう大丈夫だから」

 「あ・・・あぁ・・・」

 とっさのことで照れるひまさえなかった。

 「『誰か』見つかりそうだよ!」

 「そ・・・そうか」

 「うん!」

 その笑顔に小狼はかすかな期待を抱いてしまう。

 

 「さくらちゃん、知世ちゃん、今日はクラブお休みでしょ。帰りにツインベルに寄っていかない?」

 下校時刻、さくらが帰り支度をしていると、千春、奈緒子、利佳の三人がやって来た。

 「ごめんねぇ、今日は急いで帰らなくちゃだめなの」

 「えー、そうなんだぁ。それじゃあ、しかたないねー」

 「知世ちゃんは?」

 「わたくしは、ご一緒させていただきますわ」

 「それじゃ、わたし急ぐから! 知世ちゃんも、また明日ね!」

 「バイバーイ!」

 「さようなら、さくらちゃん」

 

 さくらはダッシュで教室を飛び出すと、そのまま商店街に直行した。

 「よいしょっ・・・と」

 商店街の入口でローラーブレードを外す。

 「今日のおかず何にしようかなぁ・・・・・・あ・・・お兄ちゃーん! 雪兎さーん!」

 桃矢と雪兎が商店街を並んで歩いている。

 雪兎は肉まんが詰まった紙袋を手にしている。

 「こんにちは、さくらちゃん。今、帰り?」

 「はい!」

 さくらは雪兎にいつもと同じように接することができてホッとしていた。

 それを心配そうに見ている桃矢。その視線を感じたのかさくらが急にふり向く。

 「お兄ちゃん、今日はクラブじゃなかったっけ?」

 「あぁ・・・ちょっとな・・・」

 「桃矢ったら、秋月さんに抱きつかれた拍子に階段から転んじゃって」

 よく見れば右足を引きずっている。

 「えーっ! 大丈夫? 痛くない?」

 「大したこと無い」

 相変わらず無愛想だ。

 「さくらちゃんがいるなら大丈夫だね。僕はこの辺で失礼するよ。それじゃあ、桃矢、お大事に」

 雪兎は肉まんを袋から2つ取り出すと、残りを桃矢に押し付ける。

 「あ・・・ゆ、雪兎さん」

 「なんだい、さくらちゃん?」

 「あ・・・あの、さようなら」

 「うん。またね」

 桃矢も手を上げてそれを見送る。

 

 雪兎の姿が人込みに消えるまで見送ると、さくらは桃矢の顔を見上げてたずねる。

 「お兄ちゃん、今夜は何がいい?」

 「何でもいいよ」

 思っていたとおりの返事が返ってくる。

 「何でもよくない! 何がいいの!」

 「騒ぐな怪獣」

 「怪獣じゃない!」

 「それよりも・・・」

 「なに?」

 「ゆきのこと・・・もういいのか?」

 「あ・・・うん・・・たぶん・・・大丈夫だよ」

 「そうか・・・それならいいんだ」

 「心配してくれて・・・ありがとう」

 「ほら・・・さっさと行くぞ。買い物するんだろ」

 「えっ、あっ、待ってよぉ!」

 足を痛めているとは思えない速さで桃矢は歩いていってしまった。

 

 

 コンコン・・・

 「ん・・・? さくらか?」

 「うん・・・入ってもいい?」

 「あぁ」

 ガチャ・・・

 さくらがお盆にティーセットとクッキーを乗せて入ってくる。

 「お兄ちゃん・・・勉強してたの?」

 「あぁ」

 机に向かっていた桃矢が立ち上がる。

 「お茶、入れたから・・・一緒に飲まないかなぁ・・・って」

 「あぁ、ちょうど気分転換しようと思ってたところだ」

 「よかったぁ」

 テーブルの上にティーポットとティーカップ、クッキーを並べていく。

 「さくらが・・・焼いたのか?」

 心配そうにクッキーをつまみあげる。

 「ううん、知世ちゃんが焼いてくれたんだ」

 「そうか、安心した」

 そう言って、口に放り込む。

 「どういう意味!」

 「そういう意味だ」

 「もう!」

 口では怒りながら、カップに紅茶を注ぐ。

 「はい、お兄ちゃん」

 「あぁ・・・・・・ズズッ・・・・・・ふぅ」

 一息ついてさくらの様子がおかしいことに気付く。

 「どうした?」

 部屋を見回していたさくらはハッとして慌ててごまかす。

 「べ・・・別に・・・・・・お兄ちゃん」

 「ん?」

 「こ・・・この部屋って・・・さ・・・殺風景・・・だね」

 「そうかぁ」

 物は少ないかもしれないが、普通の高校生ならこんなものだろう。

 「あ・・・あそこの本棚に・・・ぬ・・・ぬいぐるみ・・・なんかどうかなぁ・・・なんて」

 「ぬいぐるみ?」

 「うん、置き場に困ってるのが一つあるんだけど・・・」

 「俺の部屋をゴミ捨て場にする気か?」

 「ゴミじゃないもん!」

 「いいぞ」

 「えっ・・・いいの?」

 「あぁ・・・別に何か置く物があるわけじゃないしな」

 「ほんと! それじゃあ、持ってくるね!」

 さくらは部屋を飛び出していった。

 

 「なんだぁ、このクマもどきは?」

 「もどきじゃないもん! クマだもん」

 「ふーん。これ、手作りじゃないのか?」

 「えっ・・・あっ・・・うん」

 「誰かからもらったのか?」

 「違う・・・わたしが・・・作ったの」

 「できが悪いから部屋に置きたくないのか?」

 「違うもん・・・」

 「まあ、魔除けぐらいにはなるだろう」

 桃矢は本棚の空きスペースにクマを飾る。

 「ふん・・・こんなもんだろ」

 「ありがとう、お兄ちゃん・・・でね・・・そのクマさんね・・・名前があるの」

 「名前?」

 「うん・・・あの・・・さくら・・・っていうの」

 「さくらぁ?」

 「うん」

 「それじゃあ・・・たまにいじめてやるか」

 「いじめちゃダメ!」

 「冗談だ。それより、そろそろ寝る時間だぞ」

 「あ・・・そうだね」

 さくらはお盆にティーセットを乗せるとドアを開ける。

 「いじめちゃダメだからね! それじゃあ、おやすみなさい」

 「あぁ、おやすみ」

 バタン・・・

 さくらが部屋から出ていくと桃矢はクマのぬいぐるみを手に取る。

 「さくら・・・か・・・ふっ」

 

 

 台所に下りてきたさくらは胸に手を当てる。

 ドキドキドキドキ・・・

 まさしく早鐘を打つように心臓が動いている。

 「クマさん・・・渡しちゃった・・・」

 「クマがどうかしたんか?」

 テーブルの上でクッキーを食べていたケルベロスがたずねる。

 「ほええええ! ケロちゃん、いつからそこにいたの!?」

 「さくらが下りてくる前からや。それより、どうした? また、にーちゃんにいじめられたんか?」

 「ううん・・・いじめられてないけど・・・」

 「ふーん・・・顔・・・真っ赤やで」

 「えっ!?」

 頬に手を当てる。熱い。

 「何があったんや」

 「何もないよぉ・・・ケロちゃん、もう寝る時間だよ!」

 「あぁ! わいのクッキーがぁ!」

 さくらはケルベロスを握りしめて階段を駆け上がった。

 桃矢の部屋の前で立ち止まると呼吸を整える。

 「・・・おやすみなさい・・・お兄ちゃん・・・」

 桃矢に聞こえない程度の声でそれだけ言うと自分の部屋に入る。

 「どうしたんやぁ、さくらぁ?」

 「・・・・・・」

 「にーちゃんと何かあったんかぁ?」

 「ううん・・・」

 「それならどうした」

 「あのね・・・」

 「なんや」

 「あの・・・ケロちゃんは・・・誰か好きな人・・・いる?」

 「好きな・・・人?」

 「うん」

 「ゆきうさぎのこと・・・引きずっとるんか?」

 「ううん・・・違うの・・・雪兎さんは・・・やっぱり憧れだったのかなぁ・・・って」

 「ふーん、ゆきうさぎのことやないとすると・・・あの小僧か?」

 「違うよぉ・・・小狼君は優しくしてくれるけど・・・苺鈴ちゃんていうフィアンセがいるんだから」

 「小僧でもない・・・まさか!」

 「!」

 「知世か! 女の子同士・・・禁断の愛っちゅうやつやな」

 「違うよ! お兄ちゃんだよ!」

 「に・・・にーちゃん!?」

 さくらは真っ赤になっている。

 「本気かぁ?」

 「うん・・・」

 「あ・・・あれやな、妹がカッコええ兄貴に抱く憧れっちゅう・・・」

 「違うもん! わたし・・・本気だもん・・・」

 「本気っちゅうても・・・兄妹なんやで?」

 「やっぱり・・・おかしい?」

 「うーん・・・まあ、わいが見てきた中にそういうんも無かったわけやないけどな」

 「ほんと!」

 「でも・・・今の日本じゃそういうんはタブーやろ?」

 「タブー?」

 「禁止されとるっちゅうことや」

 「きん・・・し」

 「まあ、ゆきうさぎにふられて自棄になっとるんかもしれん。一晩ゆっくり休んで考えてみることや」

 「うん・・・」

 「それでも・・・それでも好きやと思うんやったら・・・わいも一肌脱いだる!」

 「ケロちゃん・・・」

 「さあ、今日は寝よ寝よ」

 「うん・・・おやすみ、ケロちゃん」

 

 

 「ケロちゃ〜ん・・・おはよ・・・」

 「どうしたんやさくらぁ!? その顔はぁ!」

 「うん・・・目をつむると・・・お兄ちゃんの顔が浮かんできて・・・」

 「寝てないんか?」

 「うん・・・」

 「こりゃ重症やなぁ・・・本気か?」

 「うん・・・一晩寝ないで考えて・・・雪兎さんの好きとは違うの・・・」

 「うーん・・・さくら」

 「なに?」

 「帰りにゆきうさぎに寄るように言っといてくれんか」

 「雪兎・・・さん?」

 「あぁ、主の重大事やからな・・・ユエとも相談したいんや」

 「わかった・・・」

 「それより・・・大丈夫か?」

 「たぶん・・・」

 ふらつきながらベッドから出ると、何とか着替えをすませる。

 「ほら・・・しゃきっとせんかい!」

 「ほえ・・・」

 コンコン・・・

 「さくら、朝飯できてるぞ」

 「お・・・お兄ちゃん!」

 「着替えすんでんなら、さっさとすませてくれ。片付けできないだろ」

 「う・・・うん・・・わかった・・・」

 「にーちゃん、わいの分もあるんか?」

 「あぁ」

 「さくら、行くで!」

 「あ・・・うん・・・待ってよぉ」

 「さくら、大丈夫か?」

 桃矢の顔をまともに見れない。

 「うん・・・大丈夫。ちょっと寝不足なだけ」

 「無理すんなよ」

 「うん」

 頼りない足取りで階段を下りていく。

 「そーや、にーちゃん!」

 「ん?」

 「帰りにゆきうさぎ連れてきたってや」

 「ゆき?」

 「ユエの方に相談があるんや」

 「また、さくらを危ない目にあわせる気か?」

 目つきが鋭くなる。

 「ちゃうちゃう、さくらのことで大事な相談があるんや」

 「わかった。声だけはかけておく」

 「頼んだでぇ。さくらはあてにできんし」

 パンをくわえながらコックリコックリやっていた。

 

 「さくらちゃん、大丈夫ですか?」

 「大丈夫だよ、知世ちゃん」

 答えるさくらの瞼は今にも閉じようとしている。

 「もしかして・・・昨晩、事件が起こったんですのね。あぁ、せっかくのチャンスを逃してしまいましたわ」

 この世の終わりかのような声を上げる知世。

 「違うよぉ・・・そんな事件なんか起きてないよ・・・ねぇ、小狼くん?」

 急に話を振られて慌ててしまう。

 「えっ、あっ、あぁ、事件なんて無かったぞ」

 「そうですの。よかったですわぁ」

 「知世ちゃん、お昼休みに相談したいことがあるんだけど・・・」

 「さくらちゃんの相談でしたら、いつでもかまいませんわ」

 「いや・・・ちょっと恥ずかしいから・・・お昼休みのときに・・・」

 「はい、わかりました」

 思わず耳に入ってきたその会話に小狼は意識を集中してしまった。

 (恥ずかしい・・・?)

 その単語がやけに強調される。

 

 昼休み、小狼は二人の後をこっそりとつけていた。

 二人は校庭のベンチに並んで座る。小狼は花壇の陰で話を盗み聞きしている。

 「相談て何ですの」

 「あのね・・・知世ちゃん・・・わたし・・・好きな人がいるの・・・」

 「月城さんですわね」

 「ううん、違うの・・・・・・雪兎さんには・・・ふられちゃったの・・・」

 「そう・・・でしたの・・・」

 「雪兎さんに言われたんだ・・・わたしの想いはお父さんたちへの想いと同じなんだって・・・」

 「・・・・・・」

 「ふられちゃって・・・よく考えたんだ・・・そうしたら・・・やっぱりそうだったのかなぁ・・・って思っちゃった・・・」

 「さくらちゃん・・・」

 「それでね・・・ふられて落ち込んじゃったわたしを・・・励ましてくれた人がいたんだぁ・・・」

 そこまで言って顔を赤くする。

 「さくらちゃん・・・もしかして?」

 「うん・・・その人のこと・・・好きになっちゃったみたいなの・・・」

 ガサガサッ・・・

 花壇の陰で物音がする。

 「だ・・・誰かいるの?」

 返事は無い。そーっと覗いてみたが誰もいないようだった。

 「誰もいない。猫かなんかだったのかなぁ?」

 「そうかも知れませんわね。それで・・・お話の続きは?」

 「あ・・・そう・・・それでね・・・」

 

 脱兎のごとく駆け出した小狼。その口元は思いっきりゆるんでいた。

 「さくらが俺のことを・・・」

 真相を知らない小狼は、ぬか喜びとも知らずに教室へと駆け上がっていった。

 

 

 「ふむ・・・桃矢のことを・・・」

 放課後、さくらの部屋には本来の姿に戻ったケルベロスとユエ、知世、そしてさくらがいた。

 「そうなんや。まあ、わいはお前にふられた一時の気の迷いやないかと思うとるんやけどな」

 「ふったのは私ではない、雪兎だ」

 「同じやろ!」

 「気の迷いなんかじゃないもん!」

 「そうです、さくらちゃんは真剣ですわ。血を分けた兄と妹の禁断の恋・・・なんて燃えるシチュエーションでしょう」

 「知世もそこで煽らんと・・・」

 「ケロちゃん・・・協力してくれるんじゃ・・・なかったの・・・」

 さくらが目に涙を浮かべる。

 「ああっ! わいが悪かった! 協力する、協力するから!」

 「私も協力しよう」

 「ユエさん・・・」

 「ユエ・・・」

 「どうやら桃矢はさくらに対して並々ならぬ愛情を注いでいるらしいが・・・果たしてそれが即、男女の愛情へと結びつくものかどうか・・・だが、今の桃矢にとって最も愛しい女性がさくらであることは間違いない」

 その言葉にさくらは「はにゃーん」となってしまう。

 「しかし、どうするんや?」

 「さくらはどうしたいんだ? 自分の気持ちを伝えるだけで満足なのか?」

 「伝えるだけ・・・って?」

 「その先のことも望んでいるかどうか、ということですわね」

 「その先・・・って?」

 「あぁ、もうじれったいなぁ! だから! 男女の仲になりたいんかちゅうことや!」

 「男女の・・・仲?」

 「さくら・・・まさかと思うが・・・何も知らんのか?」

 「何を?」

 三人は頭を突き合わせて相談する。

 「本気で知らんようやな」

 「小学五年生ではそんなものではないのか?」

 「でも、わたくしは三年生の時には知っておりましたが・・・」

 「それは早すぎるとは思うが・・・で、どないする?」

 「ふむ・・・となると、あとは桃矢の気持ち次第ということか・・・」

 三人は考え込む。

 「ねえ、どうしちゃったの? わたし、何かおかしいこと言った?」

 「ちょっと、待っといてぇな。今、作戦を練ってるとこやから」

 「はーい。それじゃあ、お茶のおかわり持ってくるね」

 「あぁ、甘いモンもあったら頼むわ」

 「はーい」

 さくらが出て行った。再び三人は考え込む。

 「どうしましょうか」

 「桃矢の性格を考えると」

 「にーちゃんがさくらに手ぇ出すとは思えんしなぁ」

 その時、階下からさくらの悲痛な声が聞こえた。

 「お兄ちゃん! お兄ちゃん! しっかりしてよぉ!」

 三人は部屋を飛び出した。

 

 

 「私の・・・せいらしいな・・・」

 ユエがベッドに横になった桃矢を見下ろして言う。

 「お前のせいじゃない・・・ちょっと無理しすぎただけだ・・・」

 「あれだけの魔力を私に与えたんだ・・・ちょっと考えればわかることなのに・・・クソッ!」

 「ユエさん・・・お兄ちゃん・・・大丈夫だよね・・・すぐに元気になるよね?」

 さくらの泣き顔に手を伸ばすと、その頬を優しく撫でてやる。

 「大丈夫だ、さくら。約束しただろう・・・どこにも行かないって・・・ずっと一緒にいてやるって・・・」

 「うん・・・でも・・・」

 「お前の・・・一番大事な人が見つかるまで・・・俺はお前のそばを離れない・・・」

 「もう・・・見つかったんだよ・・・一番大事な人・・・」

 「さくら! 言うてしまってええんか? 傷つくんはさくらなんやで!」

 「そうか・・・見つかったのか・・・俺の肩の荷も下りたな・・・」

 「ううん・・・下りてない・・・わたしが好きなのは・・・」

 「ん?」

 「わたしが好きなのは・・・お兄ちゃんだから・・・」

 「桃矢、さくらはどうやら本気のようだ。お前の正直な気持ちをさくらに答えてやれ」

 「ゆき・・・いや、ユエ・・・だったな・・・」

 「あぁ」

 「それじゃあ、三人とも外に出ていてくれないか? さくらと二人っきりにしてくれ」

 「わかった。ケルベロス、知世、行くぞ」

 三人は、とくに知世は非常に残念そうだった。

 

 ドアの前で待つ三人。ケルベロスが話しかける。

 「よかったんか、ユエ? お前もそれにゆきうさぎもにーちゃんに・・・」

 「わかっている・・・だが・・・桃矢からはかけがえの無いこの魔力をもらった・・・桃矢は自分が二度と母親の姿を見る

 ことができなくなるのを知っていながら・・・その魔力は私の中に息づいているんだ・・・」

 「そうかぁ・・・しかし、桃矢が何と返事するかが問題や・・・」

 「大丈夫ですわ。そうなっても、さくらちゃんには力になってくれる方がいらっしゃいますから」

 「小僧か?」

 「はい。さくらちゃんは気付いていないようですが、李くんの気持ちはさくらちゃんがお兄さまに抱いている気持ちに負けないくらい強いですから」

 「小僧だったら・・・さくらの心の傷を癒してやれる・・・か」

 「はい」

 「あとは桃矢がどう答えるのか」

 「あぁ」

 

 部屋の中では二人が互いの顔を見つめ合っていた。

 「さくら・・・」

 「お兄ちゃん・・・わたし・・・本気だから・・・本当に好きなんだから」

 それを聞いて桃矢は覚悟を決める。

 「さくら・・・俺が前に歌帆と付き合っていたのは知ってるな?」

 「うん」

 「ゆきにも・・・友情以上のものを感じていた」

 「うん」

 「でも・・・今、一番大事なのは・・・さくら・・・お前だ」

 「うん!」

 「喜ぶな! 俺たちは兄妹だ・・・好きになっちゃ・・・愛し合っちゃいけないんだ」

 「なんで!・・・どうしてダメなの?」

 「そう決まっているからだ」

 「でも・・・わたしはお兄ちゃんが好きだよ・・・雪兎さんよりも・・・お父さんよりも好きだよ」

 「お前の気持ちは嬉しいよ・・・それに・・・俺もお前が・・・さくらが好きだ・・・だから・・・」

 「だから?」

 「何があっても・・・お前を離さないかも知れないぞ」

 「お兄ちゃん!」

 「父さんが反対しても・・・さくらは俺についてきてくれるか?」

 「うん!」

 「みんなに・・・みんなにバレて辛い思いをするかも知れないぞ?」

 「うん、大丈夫。絶対大丈夫だよ!」

 桃矢がさくらを抱き寄せる。

 「目・・・つぶってろ」

 「うん・・・」

 さくらの唇に桃矢の唇が重ねられた・・・

 

 「中はどないなっとんのや」

 「しーっ、お静かに」

 ドアにガラスコップを当てて知世が中の様子を盗み聞きしている。

 ユエも耳をそばだてている。

 「どうやら・・・うまくいったようですわ」

 「そうかぁ! よかったなぁ、さくら・・・どうした、ユエ?」

 「あぁ・・・さすがに少々堪えたかな・・・」

 そう言ってユエの姿がゆきとの姿に戻る。

 「わーっ! いきなり戻るな!」

 ケルベロスも姿を変えてさくらの部屋に飛び込む。

 「あれ・・・僕は何でこんなところで寝てるんだろ?」

 「うふふ・・・」

 

 ガチャ・・・

 ドアが開いた。

 「知世ちゃん! それに・・・雪兎さん!」

 「こんにちは、さくらちゃん」

 「こんにちは」

 「桃矢の様子を見に来たはずなんだけど・・・何か廊下で眠っちゃったみたいで・・・でも・・・元気そうだね」

 「まあな・・・さくらがしっかり看病してくれるから・・・な?」

 「う・・・うん」

 「どうしたのさくらちゃん、顔が真っ赤だよ・・・あれ、桃矢も」

 「あ・・・ううん・・・何でもありません・・・ね、お兄ちゃん」

 「あ・・・あぁ」

 「ふーん」

 

 

 小狼の私室では。

 「さくらが俺のことを・・・」

 勘違いとも知らずに小狼がベッドの上で嬉しさに身悶えていた。

 

 

 


解説

 sisらぶ様のリクエストで「カードキャプターさくら」の近親相姦純愛ストーリーです。

 sisらぶ様の希望とはだいぶ違うかも知れませんが・・・・・・

 

 申し訳ありませんが、今回はHシーンを入れる余裕がありませんでした。

 管理人様のお言葉が無ければ、これも「早乙女くんちの痴情 その00」と同じ運命をたどっていたかも知れません(笑)

 

 次回からはHシーンもしっかり入れますので、感想&シチュエーションのリクエストをお待ちしております。

 最終目標は妊娠&出産です。

 特にsisらぶ様。責任を持ってアドバイスをお願いします。

 

 

 PS.本編もっとよく見とくんだった・・・

 


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